本研究は、古代の神話的世界観が、どのようにして景観に記憶されてきたのかを明らかにすることである。その方法として、まずは神話のなかに描かれた場所に注目した。対象とした神話は、古代については『古事記』『日本書紀』『風土記』『延喜式』などである。これら神話的言説の多くが、古代の交通路や、国境、都市などの景観をともなって記憶されていることが、現地調査などで明らかとなった。 つぎにこれら場所が、中世の物語においてどのように描かれているのかを調べた。対象とした物語は、『田村の草子』『酒呑童子』『玉藻前』などの御伽草子である。これら物語の場所も、古代の神話的世界観と同じく、古代の交通路、国境、都市などであることがわかった。このことは、中世の物語が、古代的世界観を引き継いでいること、さらにそのことが景観にも投影していることを示している。 近世においては、城下町の物語を研究対象とした。研究対象とした城下町は、徳川家の水戸、江戸、名古屋、和歌山の城下町である。研究対象としたのは、説話、神社、交通路、祭礼などである。これらの点についても現地調査を行った結果、近世においても、古代の神話的世界観を継承していることが明らかとなった。 この古代の神話的世界観は、近代においても景観を通じて継承されている点を、近代のアニメや映画などの物語においても探求し、継承されている点も提示した。 最終的に研究成果を『古代的世界観を記憶する景観の歴史地理学的研究』としてまとめた。
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