研究課題/領域番号 |
17K03263
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
生田 真人 立命館大学, 文学部, 教授 (40137021)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 世界都市論 / 香港 / 東京 / アジア / 東南アジア / シンガポール |
研究実績の概要 |
今年度の研究目標の第1点目は、新たな時空間論に関する基礎的考察を行うことにあった。デビット・ハーヴェイの地理学理論とフェルナン・ブローデルの時間論について検討した。ハーヴェイの考察は、主に空間論についてなされており、場所論と環境論という2つの主要な観点については、ハーヴェイはそれほど詳しく検討していないことがわかった。ハーヴェイの空間論は、社会学者のアンリ・ルフェーブルを参考にしたものであるが、3行3列の9つの異なる空間の存在とその特質を考える非常に複雑なものである。フェルナン・ブローデルの時間論は、社会には3つの異なる時間の流れがあるとする独自の理論である。 人文社会科学の時空間論については、社会を構成する個人一人ひとり注目する個人への視角と、その個人を総合して形成されるマクロな社会全体を注目する2つの視角をつなげるような何らかの方策が求められている。これについては地理学以外の経済学、社会学その他の領域では学問的な進展があり、それらの他分野の動向についても検討した。そのような考え方のひとつが、ミクロ・マクロループといわれている見方で進化経済学の中に含めて考えられることが分かった。 実態調査については国内では東京圏の調査を行った。東京大都市圏でも東部の千葉県等の動向について詳細な実態調査を行うことができた。さらに、香港やシンガポールに対抗できる国際金融の再構築を図る際に重要な東京駅周辺の再開発動向を把握した。 海外調査については、世界都市論の中でしばしば取りあげられてきた香港及びその周辺と香港とも経済的に関連する雲南省昆明市について調査した。中国本土との関係において香港は、変貌を遂げつつある。中国系企業の香港への進出が目立ち、市街地再開発も急速に進んでいる。香港と華南経済圏の一体的関係は指摘されてきたが、中国の国内各地と香港との経済的な関係も深化している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
この計画は3年計画であるが、 1年目の研究目標として設定した理論を踏まえた方法論的な検討および、中国に関する調査と関連文献の収集という点からみて、ほぼ計画通りに達成している。中国の実態調査の対象地域は、一昨年の北京と上海出張等を踏まえて、昨年度に世界都市論における中国の拠点都市であった香港について実態調査を行うことができた。すなわち香港の中国化が進行していることを確認できたことが大きい。それは香港と広東省広州市とを繋ぐ高速鉄道の建設事業に代表されている。さらに、旧国際空港であった九龍半島の啓徳空港跡地の再開発事業も進行している。この再開発は、1998年に閉港した空港を2022年頃に国際交易中心として再生させようとする計画で、香港の将来にかなりの影響力があるだろう。高い人口密度に悩む香港にあって、この再開発に際しても居住人口は9万人を計画している。香港における高層住宅建設の進展は顕著であり、中国本土からの人観光客の増加も著しい。 さらに中国南部の広西チワン族自治区に隣接する雲南省の昆明市を見ることによって、中国全体の大きな都市変化を知ることができた。中国は、都市問題の深刻化や都市住宅政策上の課題とも関連して都市部の変化が大きい。昆明市は、中国の内陸部における都市変化の代表例であるが、再開発事業の進展と地下鉄網等の公共交通の整備、それから電動モーターバイクの普及等の電気関連産業への取り組みが拡大し、都市生活が大きく変わりつつある。そしてさらに住宅再開発の著しい動向も見ることができた。昨年度は、方法論的な検討の推進と中国および香港の都市開発の変化や都市変貌を知ることができたという点で、計画通りの達成があったとみることができよう。
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今後の研究の推進方策 |
アジアは中国ばかりでなく、インドと東南アジアも大きく変貌しつつあり、2018年度は東南アジアについて世界都市論の観点からの実態調査を進めたい。 シンガポールは世界都市論でよく引用される考察の対象である。シンガポールは東南アジアの島嶼部を代表する都市であり、人口規模は小さいけれども経済的政治的影響力は大きい。シンガポールについては、マレーシアのジョホール州とインドネシアのリアウ州との関係を検討する必要がある。これらの2州はシンガポールの接続地域であり、国際連携開発の上からも注目されている。この地域は、SIJORIとも呼称されているが、シンガポールとジョホール州との間には公共鉄道の建設も始まった。国境を超える通勤者の拡大とその対応が2国間の長年の課題であったが、鉄道建設によって新たな段階を迎えつつある。2国間の地域連携に関する実態を把握したい。 2018年度は、人口規模で2000万人以上に達するインドネシアおよびフィリピンの首都圏に注目したい。特にインドネシアでは人口の増加とともに、首都ジャカルタへの人口集中が著しく、人口規模は大都市圏の定義にもよるが、ある見方では3000万人に達しようとしている。このジャカルタへの実態調査を検討したい。ジャカルタを中心とする大都市圏の地理的範囲については、その呼称がジャボタベックからジャボデタベックジュールへと変更されたように拡大の傾向にあり、その実態を把握したい。 さらにフィリピンのマニラ首都圏にも注目したい。マニラ首都圏でも、大都市圏が広域化する傾向にある。その動向を把握するのが調査の主な目的であるが、ことに東部郊外の市街地化の動向把握を目的とする。20118年度はシンガポールに加えて、新たな観点からジャカルタやマニラがというメガシティーがどのように世界都市論の中で議論することができるのかという点を考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
事務担当者と相談して、直接経費の使用残額(147円)については、次年度使用額として会計処理することとした。この残額については、次年度の物品費として使用する計画である。
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