研究課題/領域番号 |
17K03263
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
生田 真人 立命館大学, 文学部, 教授 (40137021)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 世界都市論 / シンガポール / ジャカルタ / 都市国家間関係 / 国際的地域統合 / 都市国家 / マニラ / ジョホール州 |
研究実績の概要 |
本研究では初年度から2年目の前半にかけて、国家間の国際関係と、それから都市と国家の関係に関して文献や資料を跳梁しつつ、次のように整理した。すなわち世界には、国際的レベルで地域統合が進展している地域と、国際的な地域統合は未成熟である地域の2つに大きく分けられることを確認した。さらに1国を取り出してみた時、中央集権的な都市国家関係を持つ国と、それとは大きく異なって分権的な都市国家間関係を持つ国の2つがあり、これらの諸国は地域的には近接する傾向がある。つまり大まかにみて世界は大きく4つの地域に区分できることを検討し、これについては2018年12月に論文として公表した。 国際的地域統合が比較的進展し、同時に中央集権的な都市国家関係にある地域として東南アジアを抽出し、その主要な都市のいくつかを調査した。研究の2年目である今年度は、世界都市論でもよく取り上げられているシンガポールを中心として、世界都市化政策を推し進めつつあるフィリピンのマニラとそれから、インドネシアのジャカルタの合計3都市を調査した。初年度の中国の都市に関する検討と東南アジアの諸都市に関する検討を加えた結果、次の点が明らかになった。つまり、アジアの首都などの大都市が世界経済に直接影響を与える回路とは別に各都市が政府などの国家という制度を介して世界経済に影響を与える回路もある。 ニューヨークやロンドンなどは多国籍企業の活動を通して、直接的に世界経済に影響を与える。それに対して、アジアの大都市は、世界経済への直接的な影響力は小さいけれども、その代わりに中央政府を介して他国に影響を与える。これも世界都市のひとつの回路であると考えても良い。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、都市と国家の関係に関する検討を論文として公表し、東南アジアのシンガポール、ジャカルタとマニラの3都市を調査した。そしてシンガポールを中心とする国際的大都市圏が、新しい段階に入りつつあることが分かった。シンガポールとジョホール州との間は2本の橋によって結合されているが、新しい橋の近くにシンガポールと連携したマレーシアの新開発が進展している。この開発地域には、中国資本の投資も行われている。 シンガポールでは臨海部の再開発が進展するなど、都市開発にも大きな変化があった。都心地区でも植民地時代の建物を保存した保全型の都市開発が進行している。さらに郊外ニュータウンから都心に通勤してくるという従来型の居住パターンではなく、市街地の中心部分にも人々が住むという新たな居住形態が拡大している。臨海部に巨大な公園も建設され、都市国家の都市開発が新たな段階に入ってきた。 次に、インドネシアのジャカルタ首都圏を調査した。ジャカルタ首都圏は、マニラ首都圏と違ってかなり大きく再編が進展している。以前には大都市圏南部の郊外拠点であった地区が成長し、新都心として整備されようとしている。都市圏の拡大がさらに進行して、3000万人近い大都市圏となった。そして公共の都市鉄道がようやく開業した。大都市圏の公共交通は脆弱で、各種のバスに依存しているが、限界を迎えつつある。ジャカルタでは依然として、低所得と不法居住が続いている。 フィリピンのマニラ首都圏も工業化と都市化が進展しつつあるが、都市圏の所得格差の状況は、以前とあまり変わらないようである。旧スモーキーマウンテンの周辺一帯は貧困層の居住が継続しており、都市整備は進展していない。一方で、市街地東部に向けての都市圏の拡大傾向は継続している。都市鉄道などの公共交通の整備は、あまり進展していないようだ。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は研究の3年目で、研究の最終年度である。最終年度については当初は、 EUを主な調査地域とし、調査地をロンドンとすることで申請した。ところがその後、イギリスはEUからの離脱を決定して、現在のロンドンは大きな変化を遂げつつある。この報告書の執筆時点では離脱交渉が難航し、離脱の時期が確定している訳ではない。このため、イギリスからヨーロッパ大陸へと流出する企業や工場等が多い。日系企業もロンドンオフィスやイギリス国内の生産現場を閉鎖する傾向がある。こうしたことから、調査地をロンドンに代えてニューヨークに再設定することにしたい。 2019年度についての当初計画は、EUの地域統合の現状を把握すること、それからイギリスとフランス・ドイツなどの大陸諸国との類似点と相違点を確認する。そして、主にこれら3カ国の都市―国家関係の相違点などを明らかにすることを課題としていた。このような研究視点を確保し、EUとイギリスの動向を注視しながらも、北米に注目することにしたい。 EUと北米新大陸はいずれも分権的な都市国家関係が明確な地域である。これは2018年度の研究で明確にした通りである。国際的な地域統合が進展しているのはEUであるが、イギリスの脱EUに加えて国境を越えて流入してくる難民への対処等による変化が続いている。大都市と国家の関係が、大きく再編されつつある。 他方の北米地域は、本研究では国際的地域統合が未成熟と区分した地域である。今年度の調査地をロンドンからニューヨークに移すことによって、世界都市論の中核的都市の現状を詳細に把握したい。調査は9月中を予定し、大都市圏の中心部と郊外の変容、産業活動の動向、そして大都市圏居住者の生活などについて検討したい。ニューヨークへの実態調査を踏まえて、本研究の成果報告書を執筆したい。
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