研究課題/領域番号 |
17K03264
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
加藤 政洋 立命館大学, 文学部, 教授 (30330484)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 嘉手納基地 / 基地建設 / 基地経済 / サーヴィス業 / コザ |
研究実績の概要 |
本研究は、戦後沖縄における都市の空間編成の諸過程とその特質を、〈基地経済〉の実証分析に立脚して、社会地理学的な観点から明らかにすることを目的としている。研究期間初年度にあたる2017年度は、都市の空間編成/再編の諸過程を明らかにする前提として、基地を軍事的かつ社会/空間的な存在として定位する作業を進めた。 具体的には、総面積約20平方キロメートル、全長3,700mの滑走路を2本備えた、極東最大のアメリカ空軍基地である嘉手納基地(Kadena Air Base)について、土地利用という観点からその空間性を浮き彫りにした。同基地は1943年9月から日本陸軍航空本部によって建設された飛行場を、米軍が1945年の上陸後に接収して拡張・強化し現在に至るのだが、土地利用という点からみた場合、「滑走路、駐機場、格納庫」などの軍事的用途が北西部にある一方、南東部には「軍人、軍属、家族の生活の場として、兵舎、家族住宅、病院、ショッピング、スポーツ、娯楽、保養の諸施設が完備され」ており、機能空間は完全に二分割されている。 この点をふまえて今年度は、嘉手納基地の建設工事に参入した本土企業の記録写真を手がかりにして、住宅地区の開発と住宅建設の風景を復原した。主たる資料として用いたのは、東京の中堅ゼネコンであった隅田建設の社員が撮影した写真(171枚)である。米兵の居住地分布(集積)の様態は、日常的に利用するゲートの選択に直結し、ひいては米兵のポケットマネーの総体が重要な意味を持つ〈基地経済〉の編成する諸空間の分布をも左右することになる。結果、第2ゲートの門前町というべきコザ市にサーヴィス業が集積するわけで、今年度はゲート直通の街路における商業構成についても明らかにした。飲食店/時計店(質店)/衣料品店/理美容店の集積が顕著であり、〈基地経済〉の受け皿となる業種として位置づけることができる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初、基地それ自体の空間性を問うことは、資料の制約もあり、研究期間全体にまたがらざるを得ない課題として認識していたものの、基地建設に関する写真アルバムを入手したことをきっかけとして、諸課題をすべてクリアしたわけではないにせよ、当初の予定をはるかにうわまわる進捗度を達成できたといえる。この点については、報告書『嘉手納基地 家族住宅~開発・建設の風景~』を発行し、地元である沖縄市に報告するとともに、日本地理学会でポスター発表して議論を深めることができたため、「おおむね順調に進展している」ものと判断される。 しかしながら、都市の空間編成に関する調査・研究は、沖縄市のゲート通りに関する成果しか得られておらず、やや個別事例の積み上げが足りなかったことも否めない。したがって、計画以上の進展とは言えず、おおむね順調と位置づけるのが妥当であると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
コザに関しては調査・研究の一定程度の積み上げができたため、今後はキャンプハンセンの金武町、キャンプシュワブの辺野古(名護市)、さらにはキャンプキンザーの屋冨祖・城間(浦添市)やキャンプ桑江の謝苅(北谷町)など、北中部の都市を事例にして、〈基地経済〉の受け皿となる土地利用とその景観を復原していく必要がある。その際、本研究で基本資料としている「事業所基本調査」関連の諸資料にくわえ、二つの代表的な地元紙である『うるま新報』(後に『琉球新報』と改題)ならびに『沖縄タイムス』、あるいは月刊紙の『月刊沖縄』には、各地区の主要な事業所や、事件にともなう経営者の出自、あるいは〈基地経済〉そのものについてもたびたび報じられているので、それらを丹念に閲覧し関連する記事を収集することで、関連産業の集積にともなう空間編成のありようを検討することが可能になるだろう。さらに、『商工名鑑』や業界団体の名簿に記載されたデータとクロス集計することで、特定の業種に関しては、より詳細な分析が可能になるものと思われる。 とりわけ、〈基地経済〉の担い手となる商工業者の社会地理的属性も考慮に入れる必要がある。すなわち、〈基地経済〉との関連で、都市移入者の集住/局所的労働市場にまつわる、より詳細な調査を、特定の離島ないし遠隔地の同郷者が集中する地区を絞り込み、可能な限り「生の声」(オーラル・ヒストリー)もくわえて〈基地経済〉のあり方を検討する。
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