研究課題/領域番号 |
17K03264
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
加藤 政洋 立命館大学, 文学部, 教授 (30330484)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 嘉手納基地 / 基地建設 / 基地経済 / サーヴィス業 / コザ |
研究実績の概要 |
本研究は、戦後沖縄における都市の空間編成の諸過程とその特質を、〈基地経済〉の実証分析に立脚して、社会地理学的な観点から明らかにすることを目的としている。研究期間中間年度にあたる2018年度は、これまでの研究蓄積・成果をふまえつつ、都市空間の編成過程で生産された商業地区の特色を分析する作業を進めた。 具体的には、昨年度に引き続き嘉手納基地の門前都市である旧コザを事例として、〈基地経済〉の受け皿となった二つの歓楽商店街―すなわち「センター通り」と「ゲート通り」―の店舗構成を比較検討している。その結果、次の諸点が明らかとなった。 まず構成比に占める飲食店の割合の差異である。センター通りにおけるクラブは、ゲート通りのそれを大きく上回る46%を占めていた。ゲート通りが29%であることを考えると、センター通りは明らかに歓楽的要素の色濃い街区であったことがわかる。衣料品店全体の構成比でみると、ゲート通りの22%に対して、センター通りは14%であり、ゲート通りは「ファッション・ストリート」としての性格を有していたものと考えられる。 以上の結果を商業地理学的に解釈するならば、「立地適応」が起こっていたとみなされるべきであろう。すなわち、センター通りはその名称(=中心)とは裏腹に周縁的な商業空間であること、他方のゲート通りは表玄関という立地条件に適応した店舗によって構成される商業景観を現出していたことの二点である。 なお、きちんとした成果を出すまでにいたっていないものの、旧コザ市に隣接する農村地帯であった旧美里村における事業所の立地展開についても現地調査を実施したほか、2017年度の研究成果をベースに、2018年8月10日に沖縄市戦後文化資料展示館ヒストリートにおいて、研究協力者である前田一馬(立命館大学・院)とともに「嘉手納基地 家族住宅~開発・建設の風景~」と題した報告会を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初、基地それ自体の空間性を問うことは、資料の制約もあり、研究期間全体にまたがらざるを得ない課題として認識していたものの、初年度に基地建設に関する写真アルバムを入手したことをきっかけとして、諸課題をすべてクリアしたわけではないにせよ、当初の予定をはるかにうわまわる進捗度を達成することができた。この点については、報告書『嘉手納基地 家族住宅~開発・建設の風景~』を発行し、地元である沖縄市に報告するとともに、日本地理学会でポスター発表して議論を深めることができたため、この段階では「おおむね順調に進展している」ものと判断される。 しかしながら、2018年度は研究代表者の学内役職(大学院担当副学部長)の業務にともない現地調査がままならず、都市の空間編成に関する調査・研究は、沖縄市のゲート通りに関する成果しか得ることができなかった。上述のとおり、旧コザ市に隣接する農村地帯であった旧美里村における事業所の立地展開についても、歓楽街である《吉原》を中心に現地調査を実施したものの、これまでの実績にかんがみれば、掘り下げ方が甘いと言わざるを得ない。したがって、計画以上の進展とは言えず、「やや遅れている」と位置づけるのが妥当であると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
嘉手納基地とその門前都市であるコザに関しては、一定程度の成果を積み上げることができた。すなわち、「歓楽街『センター通り』の商業環境」と「門前商店街「ゲート通り」の店舗構成とその特色」についてはすでに論文にしており、両者の比較も実施している。また、ヴェトナム戦争期における「宿泊業の立地展開」についても明らかにした。本課題の研究期間に先立っては、ビジネスセンター構想と《八重島》の開発をめぐる過程や、他都市の歓楽街開発についても論じている。さらに、既出の「米軍統治下における奄美-沖縄間の人口移動」について、コザに絞った研究も進めることが可能である。また、学会発表した照屋「黒人街」については論文にしていないため、これも2019年度に公表する必要がある。 これら一連の研究を『コザ 基地都市の空間形成史(仮題)』というタイトルで一書に総括すべく、最終年度は必要な追調査を実施することとする。なお、基地経済と都市の空間編成を一般論として定位するためには、他都市の事例もきちんとふまえておく必要がある。すでに着手しているキャンプハンセンの金武町、キャンプシュワブの辺野古(名護市)、さらにはキャンプキンザーの屋冨祖・城間(浦添市)やキャンプ桑江の謝苅(北谷町)など、北中部の都市を事例にして、〈基地経済〉の受け皿となる土地利用とその景観を復原することとしたい。本土における基地都市の状況も観察することで、沖縄の空間形成史を相対化することも追及する。
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次年度使用額が生じた理由 |
学内役職の業務にともない著しく研究時間が減じたため、十分な調査・研究活動を実施するにいたらず、次年度使用額が生じる結果となってしまった。 次年度は研究期間の最終年度に当たるため、研究計画にのっとり適切かつ適正に使用するものとする。すなわち、研究の総括に向けて日常的な調査・研究活動に必要な消耗品を中心とする物品の購入に充当する。高額の機器その他の物品を購入する予定はない。 授業期間外を中心に、現地調査(追調査・補遺調査を含む)を実施する。なお、現地調査に際しては、研究補助者として大学院生を雇用し、現地における円滑な調査を心がける。また、基地周辺の地形を図化(ないし復原)すべく、しかるべき技術(GIS関連)を有する院生を雇用するため、人件費を使用する。なお、該当する院生がいない場合は業者に委託するものとする。
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