研究課題/領域番号 |
17K03267
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
小田 博志 北海道大学, 文学研究科, 教授 (30333579)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 脱植民地化 / repatriation(返還・帰還) / 先住民族 / 自然‐文化 / 生命論 / 自発性 / 多様性 / 生きた世界 |
研究実績の概要 |
2年目である2018年度の研究実績は、学会発表によるアウトプット、repatriationの実際に関する知見、国民国家と先住権に関する考察、そして生命論としての脱植民地化論の深化である。 2回の学会発表(日本文化人類学会、日本平和学会)において、これまでの本研究課題に関連する成果を公表した。 9月にオーストラリアで開催されたrepatriationをテーマとするコースに参加し、情報収集をすると共に、Fitzroy Crossing地域において先住民族遺骨が再埋葬されたコミュニティを訪問しrepatriationの現場への具体的な知見を得た。 国民国家、憲法、先住権、植民地主義との関連を、西川長夫の「〈新〉植民地主義論」と関連づけながら考察し、その結果を論文「ドイツから『移管』されたあるアイヌの遺骨と脱植民地化」の中で述べた。 この研究課題に関して2018年度の最も重要な成果は、生命論としての理論的な深まりである。先住民族の遺骨の過去における収奪と、現代におけるrepatriation(返還・帰還)に関してこれまで明らかにしてきたことを、広く脱植民地化の文脈に位置づけて考察したときに、「生命(いのち)」というテーマが浮上してきた。歴史をふり返れば「自然/文化」の大分割が植民地主義とその中での先住民族遺骨の収奪の前提となった。この大分割において失われたのは、人間を含んだ「生きた世界」である。ここで生命的自発性と多様性とをキーワードとする理論枠組みが、アボリジニ研究のデボラ・ローズ、保苅実、アグロエコロジーのヴァンダナ・シヴァ、精神医学の木村敏らの先行研究と対話することによって粗描できるようになった。このことは、「いのちの風景」の回復、すなわち「遺骨」が生きた主体として再び戻ることができる生命が循環する世界の回復が、深いrepatriationの前提となることを示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は特に脱植民地化の理論的考察において進展があった。 「グローバル人骨流通ネットワーク」、遺骨の「収蔵」の経緯と現状、当事者との対話、repatriationの制度と事例に関しては、今後の研究実践につながる重要な情報を得ると共に協力関係を形成することができた。
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今後の研究の推進方策 |
3年目に当たる2019年度は下記の項目について具体的に取り組みたいと考えている。 (1) 先住民族遺骨収奪の歴史的背景となった「自然/文化」の分離過程について、特にドイツにゆかりのある人類学者(R. Virchow, F. Boasなど)の資料に基づいて明らかにする。 (2) 「自然‐文化」をシームレスに(切れ目なく)捉え、表現できる枠組みと方法論とを育んでいく。その際に、生命論(客体化・所有・支配ができない生命的自発性とその表現の多様性を出発点とする理論枠組み)を存在論的転回以後の人類学とを対話させ、またこのテーマと響き合う現場での調査を実施する。 (3) 「グローバル人骨流通ネットワーク」と遺骨収蔵状況、およびrepatriationの制度と事例に関する調査を進める。 (4) repatriationに関する「対話の場」をひらくための探求を続ける。
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