研究課題/領域番号 |
17K03269
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
川口 幸大 東北大学, 文学研究科, 准教授 (60455235)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 中国 / 家族 / 親族 / 一人っ子政策 / 広東 / 広州 / 祖先祭祀 |
研究実績の概要 |
2018年度は主として中国広州市における現地調査および文献研究を行った。その結果明らかになったことは次の点である。 まず、婚出した女性が子とともに頻繁に生家に出入りするようになっている。両親の誕生日祝いや病気の際の見舞いなどには、夫とともに生家に戻ることも珍しくない。さらに祖先祭祀についても、婚出した女性は子を連れて生家の祭祀に参加することがかなり一般化している。以上のことから、家族の関係性において双系的な傾向が見いだせるようになっている。一方で、新たに結婚したカップルは、男性側の村で、男性の両親がごく近隣に用意した家屋に住むことが一般的である。また、女性の妊娠出産に際しては、日本のような、いわゆる「里帰り出産」はほとんど見られない。女性の側から見ると、日常的な生活は、夫と、舅・姑、さらに夫側の親族との関係性が大部分を占めている。この点では、顕著に父系的な側面を見いだすことができる。次に、2016年に「一人っ子政策」が廃止された影響については、農村部ではもともと一人目が女児ならもう一人出産可能だったこともあり、大きな変化は見て取れないというのが現状である。 以上のように、少子化が進む現代中国の農村部においては、人々の志向においてそれへの対抗策がそれほどはっきりと見て取れるわけではなく、双系的な側面が定着していると同時に、父系的な性質は依然顕著である。これらの知見には、「個人化」をもってとらえられてきた農村部における人間関係の研究を批判的に検討しうるという意義がある。また、状況によって父系と双系が前景化するこの現状は、人類学の家族親族研究に新たな貢献を果たしうる重要性を有している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の昨年一年間の進捗状況は、予定通り順調に進行していると言える。その理由は、当初より計画していた現地調査と資料収集を遂行することができ、かつ上述の通り、女性と生家および婚家とのかかわり方、祖先祭祀、一人っ子政策の撤廃による影響についての知見を得ることができたからである。また、それらの知見について、人類学の親族研究と中国研究の枠組みに沿って分析を行うことができ、新たな理論的貢献を果たす可能性を示すことができることもその理由である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、主に次の二点について研究を進めていく計画である。まず一点目は、家族親族政策に関わる政策文書等、現地における文献・文書の一次資料を収集し、分析を進めることである。それによって、政府による当該政策の思想とその変遷を公的な側面から明らかにすることができる。二点目は、老親と子のケアについて現地調査を進めることである。少子化によってケアする主体は減少しているが、ケアの対象、特に老親は増加している。そうした状況下において、誰がどのようなかたちでケアを担っている/受けているのかについてのデータを収集し、少子化進行のただ中における家族の変容と持続について検討を進める。
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