最終年度にあたる令和元年度は、調査地において5年がかりで修築が行われていた祠堂(祖先を祀る建造物)の大々的な落成式典についての調査を行った。そこでは親族の年長者へ敬意を示しつつ、資金を出した有力者を称揚するという、親族組織(宗族)の構造における伝統的な特質が維持されていた。一方で、女性や多数のメディアが参加し、その模様がテレビ、新聞、インターネット等でしきりに報じられるという新しい要素も加わっていた。最も注目すべき点は、式典と共に行われた食事会で、新年や祖先祭祀も含め普段は顔を合わさない親族たちが一同に会していたことであった。宗族の活動が人々を引きつける力の大きさが顕著に表れていた。 研究機関全体を通した成果は、次の通りにまとめられる。日常の付き合いにおいては、婚出した女性が、その子も伴って頻繁に生家に顔を出し、食事を共にしたり、余暇を過ごしたりしており、密接な関係が保たれている。清明節の祖先祭祀でも、女性は、時には夫すら伴って生家の祭祀に参加している。これらは、前世代の女性たちには考えられなかったことであり、過去20年のうちに生じた新しくかつ大きな変化である。ただし、それは共産党イデオロギーによる男系主義の批判や、伝統への再評価といった要素がより大きく作用している。他方で、大学進学や就職に際して親―子の地元志向が顕著となっており、家族規模の縮小に伴って、親子関係とユニットとしての核家族の重要性が一層増しているという知見を導くことができた。
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