最終年度に当たる令和3(2020)年度は、コロナ禍で先延ばしになっていた学術誌への投稿・掲載が実現し、学会研究大会での発表も2回行うなど生産性が高いものとなった。他方コロナ禍で現地調査が実施できなかったため、最終年度の当初の課題である「英語学校の内と外」を対象とすることは叶わなかった。そのため、それまで実施したテーマと関連あり、国内にいながら発展性のあるものとして、グローバルなスキルとしての英語力修得がどのようにフィリピン国内の社会的断絶を生む結果となったかを検討した。英語学校での学習者は海外からの若者であり、彼らにとって、英語力習得はあくまでも自己実現のためであった。しかし、そうした留学熱はフィリピン英語の商品化を加速させるだけでなく、フィリピン国内で多くの英語教師としての雇用を創出し、地域振興(観光、サービス業、不動産業)といった多大な経済効果ももたらした。別言するとフィリピン英語はフィリピンに経済的なエンパワーメントをもたらしただけでなく、外資系のコールセンター産業誘致することにもつながり、同国を「アジア最大の知の集積地」へと変えたことを意味する。以上のことから、韓国・日本を含む若者が途上国フィリピンで英語学習するというイノベーションは、「英語化するアジア」の一部に過ぎず、より多角的多面的に検討する必要がある。現代フィリピンの成長を牽引する「フィリピン英語」は、「知をめぐる新しいモビリティ」を生み出し、東南アジア全体で展開する大きな多元的なグローバリゼーションと共鳴しながら、その裾野を拡大させている。英語を母語としないフィリピンへの知と連関したトランスナショナルなモビリティが、アジア変革の契機となっており、このような動向は過去になかったという意味で注目に値する。
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