研究課題/領域番号 |
17K03273
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研究機関 | 宇都宮大学 |
研究代表者 |
柄木田 康之 宇都宮大学, 国際学部, 教授 (80204650)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 移民 / 適応戦略 / アイデンティティ / ミクロネシア |
研究実績の概要 |
ミクロネシア連邦は1986年に米国と自由連合協定を締結・独立し、協定はミクロネシア連邦市民に米国へのビザ無し入国の権利を与えた。この結果1986年以降、ミクロネシア出身者のグアム、ハワイ、米国本土への移民が急激に拡大した。この自由連合移民に対する米国国家レベルの移民政策では、移民・ホスト社会の共生への配慮は見られない。米国一般会計局(GAO 2001)は移民対策の財政負担がグアム、北マリアナ連邦、ハワイ州の財政を圧迫し、この財政圧迫が移民の教育水準、雇用水準、健康水準の低さに起因するとして、ミクロネシアからの移民を制限することを提言している。 これらの批判に対抗し、ハワイ島のヤップ離島出身者は、子弟の合同卒業記念日を開催し移民の公的教育での成功を訴えている。Remathau Community of Hawaii(RCH)はヤップ離島出身者がハワイ島で形成している非公式な移民のアソシエーションである。アソシエーションは、子弟が通学する学校の卒業式とは別に、独自の卒業記念日を毎年5月末の祝日に開催している。この卒業記念日では、地域の学校関係者、ハワイ州教省関係者が招かれ、伝統的な舞踏・技術の紹介と同時に、子弟の公的教育の成果が誇示される。これは移民コミュニティーが教育における成功という価値観を地域社会と共有することを示す。公的教育の成功が伝統文化ともに離島出身者のアイデンティティ発露の手段として用いられているのである。 この合同卒業記念日は近年ハワイ島からグアム島に伝播したが、グアム島では限られた離島出身者の参加する記念日となっている。むしろグアム島では複雑に発達した葬儀が強調される。本研究は卒業記念日と新たな葬送慣行を対比し、ハワイとグアムのヤップ離島出身者の適応戦略の違いを比較している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究代表者は2018年度の調査を受けて2019年6月にグアム島の合同卒業記念日に参加した。その結果、ハワイ島コナ地区で開始されたヤップ離島出身者の合同卒業記念日がウルシー環礁出身者を中心にグアム島で行われるようになり、このウルシー環礁の合同卒業記念日にそのほかのヤップ離島出身者が参加し始めていることを確認した。これらの調査結果の口頭発表を第53回日本文化人類学会研究大会(東北大学、2019年6月)において行った。 また2019年3月に神戸大学で開催された国際セミナーで、グアム島においてヤップ離島出身者が新たに発達させた葬送慣行の口頭発表を行った。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの調査研究により米国ハワイ島で開始されたヤップ離島出身者の合同卒業記念日が、米国グアム島に伝播しウルシー環礁出身者を中心に開催されていることが確認されている。このためハワイ島を中心とた記念日とグアム島の新たな葬送儀礼の社会文化経済的比較が重要な研究課題となった。 研究代表者は2020年にミクロネシア連邦ヤップ島、米国グアム島、米国ハワイ州において合同卒業記念日の拡大についての聞き取り調査を実施する予定であったが、新型コロナウイルス感染症流行のため、現在調査計画が立てられない状況にある。当面ハワイ島の合同卒業記念日と、グアム島の合同卒業記念日と新たな葬送儀礼の既存資料を整理し、ハワイとグアムの適応戦略の対比の社会経済的意義を検討を課題としたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年3月に計画され発表論文が受理されていた日本オセアニア学会第37回研究大会(三重県鳥羽市)が新型コロナウイルス感染症流行のため中止されたため出張旅費に相当する金額を支出できなかった。この金額は2020年度の国内旅費として支出予定である。
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