ミクロネシア連邦は1986年に米国と自由連合協定を締結、独立した。この協定はミクロネシア連邦国民に米国へのビザ無し入国の権利を与え、この結果ミクロネシア出身者のグアム、ハワイ、米国本土への移民が急激に拡大した。米国会計検査院(GAO 2001)は移民対策の財政負担がグアム、北マリアナ連邦、ハワイ州の財政を圧迫しており、この財政圧迫は移民の教育水準、雇用状態、健康状態の低さに起因するとし、ミクロネシアからの移民制限を提言している。 この移民の教育水準批判に対抗し、ハワイ島のヤップ離島出身者のアソシエーション(Remathau Community of Hawaii)は、子弟が通学する学校の卒業式とは別に、独自の卒業記念日を毎年5月末の祝日に開催している。この記念日では、地域の学校関係者の前で、伝統文化と共に、子弟の公的教育における成功が顕示され、離島出身者のアイデンティティ発露の手段として用いられている。 この卒業記念日は近年ハワイ島からグアム島に伝播したが、グアム島では限られた離島出身者が参加する記念日にとどまっている。むしろグアム島では、移民の遺体の故郷への搬送を最重要課題とする新たな葬送儀礼が発達し、親族、出身島嶼間の複雑な贈与慣行が離島出身者の関心の中心である。 本研究はハワイ島の卒業記念日とグアムの新たな葬送慣行を対比し、ハワイ島でのホスト社会への適応を教育水準批判に対する文化的アデンティティに基づく抵抗、グアム島でのホスト社会への適応を、親族・島嶼ネットワークの日常生活の必要性への流用とらえ、ハワイ島とグアム島の移民の適応戦略の差異を検討した。
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