本研究の目的は中国社会主義集団経済と社会主義市場経済化を経験してきたモンゴル牧畜民女性の都市進出過程と都市での生活経験を、オーラルヒストリーにより具体的に明らかにすることである。 これまで日本語に翻訳公開した6人のモンゴル人都市在住女性のオーラルヒストリーにモンゴル語を加えて『千葉大学ユーラシア言語文化論集』別冊にて出版公開した。 これまで公開したモンゴル人女性はフフホト在住3人、盟旗在住の女性2人と北京在住の女性1人の計6名である。中国の都市の特徴は首都北京市をはじめ、内モンゴル自治区首府であるフフホト市といった大都市から、盟、自治州中心の中都市、旗中心の小都市があり、移住先としての都市は1つではなく、その規模という点でも多層性があることである。都市進出の要因は大きく都市居住男性との婚姻、配偶者もしくは自身の進学とその結果による都市への就職である。都市進出において共通している点として、時代の混乱を挟むものの、中国における教育の普及がある。都市移住前後における人民公社期の生活について詳細に語られており、人民公社期の牧畜、農業などの生産活動だけでなく、食生活など日々の生活に加え、結婚、教育制度とそれらの変化について知ることができる。他方で、人民公社期がその後の人生、とりわけ進学、就職に関して大きな影響を与えている。2023年度に公開した北京市に移住した女性は50代に退職した後、先に北京市で活躍していた息子のすすめにより北京市に移住し、モンゴル料理レストランをオープンさせ、成功を収めたもので、北京におけるモンゴル人コミュニティの一端を示すものである。
|