研究課題/領域番号 |
17K03275
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研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
山内 由理子 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 准教授 (50626348)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 日本人移民 / 先住民 / アイデンティティ |
研究実績の概要 |
2020年度には、2019年度にフィールド調査により収集した資料を整理し、理論的文献を合わせて分析を行った。日本人のルーツを持つ先住民とのミックスの人々へのインタビュー及びフィールド調査により収集した資料のうち、自らのルーツに関するインタビューにおいて食に関する語りの多いことに着目し、日常生活の中で醸成されるアイデンティティという観点から分析を行った。食と移民のアイデンティティとの関係の密接さはかねてより様々な研究で指摘されているが、今回の分析においては日本人の父親や祖父の作った食に関する語りにおいては、ノスタルジアやそれにまつわる日系としてのアイデンティティの表出だけではなく、食とそれにまつわる親密性の記憶を操作することにより、彼らが多様で時には不安定な日本人のルーツとの関係や多文化主義やグローバリゼーションの潮流の中で自らのポジショニングを行っていることが明らかになった。このような微細な日常生活の中に潜む多層的なアイデンティティを掘り下げていく作業は、本研究の対象のように多層的なアイデンティティを掘り起こす作業において今後も不可欠なものといえる。この分析の結果は国際学会であるFood Studies Conferenceでのペーパーや、本の一章として発表されている。 また、文献やメール、Facebookなどによるインタビューを通じてオーストラリア先住民のCOVID19に関する調査を行い、ブルームの日系人と先住民とのミックスの人々に関しては、先住民と英語とのクリオール言語への親和性の表出などを観察し、日系にとどまらない意識の持ち方を観察した。結果は先住民とCOVID19に関する研究会で発表されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
2020年度にはCOVID19の世界的流行により、オーストラリアへの渡航がかなわず、本研究に必要不可避であるフィールドワークが不可能となった。これまでの調査の分析や文研研究、調査対象の人々へのメールやfacebookを通じたインタビューなどによりある程度情報を収集することはできたが、調査地の人々にはSNSやインターネットを使用しない人々も多く、収集できる情報には限界がある。実際にフィールドに行ってこそ行うことのできる参与観察ができなかったことも研究の遅れに大きく影響している。また、現地においてフィールドワークに加え歴史的状況を調査するための図書館やアーカイヴにおける文献調査も行うことができなかったこともマイナスである。 さらに、COVID19により、参加予定であった様々な学会が中止あるいは延期された。そのために研究成果の発表の機会が失われたり、その後の成果物出版も延期せざるを得なかったケースもある。オンラインにより参加可能となったものもあるが、予定の変更により研究の進捗が遅れてしまったことは否めない。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度においてもCOVID19の流行は続き、オーストラリアへの渡航はできない状態が続いている。通常現地調査は7-9月に行ってきたが、2020年度に続き2021年度もそれができない可能性が大きい。ワクチンの接種の進行状況により今後の見通しも変更される予定である。 現時点においては、ワクチンの接種完了見込みが2020年10月とされており、それが予定通りに進み渡豪が可能となった場合には、2月の下旬あるいは3月の上旬に短期に現地調査を行う予定である。渡豪可能となるまでは、入手可能な文献による調査やこれまでのデータの分析を続け、研究成果の発表や今後の研究の準備に努める予定である。 研究発表に関しては出版物のほか、オンラインなどにより開催されることとなった学会での発表を予定している。しかし、2020年度に続きCOVID19の流行が続いているため、従来参加予定あるいは今後参加予定である学会のいくつかは予定が未定のまま続いているものがあり、予断を許さない状況である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度には、COVID19の流行により、予定していたオーストラリアにおける現地調査やオーストラリアの図書館やアーカイヴにおける文献調査も行うことができなかった。また、研究成果を発表するため参加予定であった種々の学会も延期や中止となり、発表の機会も大きく制限された。 このような状況のため、2021年度への研究の延長を申請し、受理されている。
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