最終年度である今年度は、モンゴルにおいてコロナウイルス感染拡大に伴って伝統舞踊の実践がどう変化したかについて研究した。そのため、インターネット上で民族舞踊のダンスチャレンジを組織した舞踏家とそのダンススタジオ、伝統文化フェスティバルや伝統芸能継承者らを取材した。その結果をこれまでのインタビューを含む調査と総合し、コロナ・パンデミックがモンゴル人の伝統芸能への評価や実践に画期的な変化を生じさせた過程を記述し、モンゴルの社会において伝統芸能がさまざまな新しい要素を取り入れることによって現在も活発に実践・継承されていることを明らかにした。 研究期間全体を通じて実施した研究の成果は、①牧畜民世帯が、旱魃などの気候イベントに起因して、牧畜移動の回数や距離だけでなく、子供の断髪式や結婚式などの儀礼を通じた社会生活、さらには生活全体を構成しなおしていることを確認した。とくに、調査地のモンゴル人とカザフ人とのエスニックな境界を越えた個人的な友人関係が、気候的な要因をはじめとする諸要因によって、いかに構築されているか明らかにし、その共生原理を、統合による同化や隔離とは異なる、離接的総合と性格づけた。②ヤギの搾乳について、西モンゴルで調査を行い、掛け声と応答の交換によってヤギとヒトとの関係がいかに構築されるか記述し考察した。それによって、牧畜技術の重層性と、実践されている牧畜技術が閉じた系ではなく様々な断片を持ち、そのことによって環境の変化を受け入れ、生態的・生物学的・社会的関係を織りなし生成・変化してゆく動態が明らかになった。③ヒップホップのブリコラージュ性について、インターネットの普及とそれに伴うインターネット上のコンテンツ(楽曲そのものとビート)のコモンズ化が、現在のヒップホップの受容と制作のあり方に決定的に作用していることを明らかにした。
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