研究課題
本年度は、ジャカルタにおいて約一か月滞在し、主要なバリ芸能家たちの多くと知り合うことができた。本年度計画していたのは①ジャカルタ在住のバリ人コミュニティの芸能活動についての基礎的な状況理解と、②ジャカルタの主要な4つの舞踊団における基礎データーの収集である。①については、芸能活動そのものだけに注目するのではなく、関連するヒンドゥ教コミュニティのあり方や、その活動全体のなかにおける芸能活動の姿をとらえるよう心掛けた。バリ島の場合とは異なり、ジャカルタでは人々のヒンドゥ教徒としての活動の多くは、寺院内に集約されていることがわかった。ジャカルタ郊外のある寺院を拠点としながら、その寺院で行われている宗教学校、ヒンドゥ・コミュニティの会議、舞踊レッスン、ガムランレッスン、大晦日の浄化儀礼、独立記念日の祝祭、そして日々の祈りなどを観察(時に参与観察)した。②については、ジャカルタの主要なバリ舞踊団や舞踊教室を訪れ、普段のレッスンの様子を記録するとともに、おもにインストラクターたちへのインタビューを行った。その中には、バリ出身のバリ人だけでなく、ジャカルタで生まれたバリ系住民や、バリ人の血をひかない他民族集団の出身者も含まれる。なお調査中には、ジョグジャカルタで開催された(バリ島外在住者のみが参加できる)バリ舞踊のコンペティションを見学し、ジャカルタ外で活発に活動を展開するいくつかの舞踊団を知ることができた。また、バリ島も訪れ、バリ芸能の最近の動向について情報収集した。またジャカルタの歴史に関する図書資料を収集した。なお本年度は、これまで断続的に行ってきた予備的調査の成果を含めて、ジャカルタにおけるバリ芸能の状況について英語論文を発表(出版)した。
2: おおむね順調に進展している
調査においては、ジャカルタのバリ人芸能家や、ヒンドゥ寺院の関係者の協力を得ながら必要な情報を収集することができている。また筆者が踊り手や演奏者としてそこでの活動に参与しながら調査することも許される状況が整った。また予定していた国際学会での口頭発表および英語論文の執筆も行われ、後者は無事年度内に出版された。
H30年度もジャカルタとバリにおける調査を継続する。ジャカルタのヒンドゥ教徒の周年祭、および舞踊団の創立記念イベントに合わせて渡航する予定である。特にジャカルタ在住歴の長い芸能家たちへのまとまったインタビューによって過去と現在の状況の変化について明らかにすることもH30年度の課題としたい。また、比較対象としてのジョグジャカルタとランプンでの小規模調査の可能性を探る。文献調査としては、昨年から引き続き調査地の社会的、文化的歴史的背景の把握に努めると同時に、バリ芸能をはじめとした芸能の越境についての先行研究を整理する。くわえて、アジア・アフリカ言語文化研究所の共同研究会と連動しながら、インドネシアのイスラームの現状についての理解を深める。成果発表としては、7月に開催される東南アジアのパフォーミングアーツをテーマとした国際シンポジウムで口頭発表することを予定している(査読通過済み)。
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