研究課題/領域番号 |
17K03277
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研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
吉田 ゆか子 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 助教 (00700931)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 文化人類学 / 宗教 / バリ芸能 / 都市 / マイノリティー / 身体観 |
研究実績の概要 |
本年度の研究内容は、①ジャカルタのバリ系住民の芸能活動についての調査、②非バリ系住民にも開かれているバリ芸能教室や芸能団の調査、③比較対象としての、その他の地域におけるバリ芸能活動の調査、の3点であった。 ①については、昨年度に引き続きある寺院にて、バリ舞踊レッスンを中心とした調査を行い、また今回は周年祭(odalan)も観察した。また、別の切り口として、近年大流行しているルジャン・レンテンと呼ばれる奉納舞踊に注目した。これは、バリ州政府がある地域の古い奉納舞踊を復興して再編したもので、数年前からバリ島で大流行し、近年ジャカルタでも広くバリ系既婚女性により習得され奉納されるようになった。こうした芸能の伝播の経緯はいかなるものか、そのなかでジャカルタ独自の発展や展開があるのか、またこの奉納芸がバリ系住民以外の愛好家たちに開かれてゆくのか、といった問をたて、関係者から聞き取りを開始した。②については、バリ人指導者3人および、若いムスリムのバリ舞踊愛好家2人に、重点的なインタビューを行った。くわえて、ジャカルタで最も歴史の古いバリ舞踊教室LKB Saraswatiの50 周年記念イベントと定期試験を観察した。なお②の成果として、コタキナバルで行われた、国際学会ICTMの傘下にある東南アジア芸能の研究グループPASEAのシンポジウムにて口頭発表し、その内容をプロシーディングスにも掲載した。 ③については、短期間ながらスラバヤの寺院を訪れ、そこでバリから来た指導者が、上述のルジャン・レンテンを現地のバリ系住民に伝授するプロセスを調査した。 また、短期でバリ島を訪れ、子供たちへの芸能教育についての情報収集を行ったほか、バリ島内でのルジャン・レンテンの広がりの現状やそれに至るまでの経緯、外国人や非バリ系住民がこの演目を習得することをめぐる賛否の議論について、関係者たちに話を聞いた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ジャカルタにおいて実践されるバリ芸能について、バリ系住民および非バリ系住民の両方の視点からとらえるという調査上の目標にむかって順調に情報収集ができている。また、ジャカルタ以外の地域(今回はスラバヤ)においても対比のための小規模調査を行うという計画も、その足掛かりをつくることができた。 くわえて、査読を経て国際シンポジウムで研究結果を発信し、またその内容をプロシーディングスとしても発表することができている。
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今後の研究の推進方策 |
基本的には2018年度の調査を継続する。くわえて①に関しては、先行研究等も参照しながら、ジャカルタのヒンドゥ寺院建設やバリ人コミュニティ形成の歴史的な経緯とその変遷についても目を配る。これまでの調査から、都市生活を営む中で、バリ系ジャカルタ住民自身の身体性や身体観、芸能のやくわりなどが変化したのではないか、という仮説が生まれたため、これについても考えたい。②については、昨年同様の個人を対象としたデプスインタビューを中心に展開する。③については可能であればスラバヤを再訪し、非バリ系の住民たちのあいだでバリ芸能が実践されているかなど、ジャカルタの状況と比較しながら調査する。またそれ以外の地域での短期調査の可能性も探る。 研究発表としては、2019年度は、アジア太平洋地域の舞踊をテーマとした国際学会において、バリ舞踊を学ぶムスリマたちの実践に関する口頭発表を予定している(査読通過済み)。また、他の科研プロジェクトとも連動しながら、ジャカルタにおいて、トランスカルチャー状況下における服装や服装を通した自己表象をテーマにしたシンポジウムを企画する。そのなかで、バリ舞踊やその衣装を通して他民族・他宗教の身体性や感性と向きあうムスリマ達の経験について考えたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末に購入した調査用のPCが当初の予想より若干低価格であったために2000円前後の予算が余った。これは、来年度の調査費として使用する予定である。
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