研究課題/領域番号 |
17K03285
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
長坂 格 広島大学, 総合科学研究科, 准教授 (60314449)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 再生産労働の国際分業 / 男性性 / フィリピン / イギリス / ヘルスワーカーの国際移住 / アイデンティティ / 社会関係 |
研究実績の概要 |
平成29年度は代表者のサバティカル研修期間で、イギリスのサセックス大学に客員研究として所属していた。その期間中に、(1)昨年度までに調査したイタリアの家事労働者についての聞き取り資料の整理分析、(2)イギリスのフィリピン人の移住についての文献調査と、(3)聞き取り調査および参与観察を実施した。(1)では、再生産労働の国際分業について実施したイタリア調査の資料を整理分析し、その成果をサセックス大学、ブリュッセル自由大学のセミナーで発表した。(2)では、イギリスの移民政策の変遷の中での国際看護師の受け入れの変化、その中でのフィリピン出身の看護師の移住の変遷についての概要を把握した。(3)では、ロンドンおよびイングランド東南部で、28名(男性11名)のフィリピン出身者に聞き取りを行った他、フィリピン系移民が主宰運営するプロテスタント系教会やフィリピン系移民組織への参与観察を実施した。聞き取りは、看護師および医療技術者、看護師の配偶者、介護者あるいは看護助手、介護者あるいは看護助手の配偶者、さらには比較対象としてイギリス人と結婚して移住してきた結婚移住者に対しても実施した。看護師については、1970年代に看護学生として移住した人々、1990年代後半から2000年代半ばの国際看護師のリクルートが盛んにおこなわれた時期に移住した人々、2010年代以降再び国際看護師のリクルートが増加した時期に移住した人々が対象となり、看護師としての移住経験の歴史的変遷の概略を把握することができた。次年度以降、聞き取り資料、参与観察資料を整理しつつ、「看護ケアのグローバルなチェーン」の議論等からの分析考察をすすめていく計画である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
イギリスのフィリピン人移住者は、フルタイムで勤務する移住者がほとんどであり、また居住地も、病院の所在地ごとに散在している。そうした背景もあり、研究計画上、調査の中心となる男性看護師、介護者への聞き取りの実施数は予定よりやや少なくなった。しかし、1年間の滞在を通して、より広い社会的属性、背景を持つ移住者への聞き取りを実施することができ、さらに教会等での参与観察を実施できたことで、男性移住者を対象とした詳細な聞き取り資料を、他の移住者への聞き取りや文献調査で把握した、フィリピンからイギリスへの移住の全体的な流れの中に文脈化して考察することが可能となったともいえる。
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今後の研究の推進方策 |
これまで実施した調査資料の整理と分析、分析視点を構築、精緻化するための理論文献の読解が当面の課題となる。また、研究計画に沿って、フィリピン調査を実施し、現地での文献、統計資料の収集、および関係機関への聞き取りを実施することによって、イギリス調査で得た資料を多角的に検討するための資料収集と整理に努める予定である。
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