新型コロナウィルス感染症の拡大の影響で、2019年度予定していた現地調査ができず、研究期間を1年間延長した。2020年度も、海外調査は困難であったため、これまで収集した資料のまとめと考察を行った。具体的には、2020年度の前半は、2018年3月に実施したイタリア調査で得た資料を用いて、「「再生産労働の国際分業」のなかの男性移住者:イタリアのフィリピン人男性家事労働者の男性性と自己の再構築」という論考を執筆した。この論考では、イタリアで家事労働者として就労するフィリピ系男性移住者を対象として、彼らの移住家事労働者としての就労経験理解、移住先と出身地における彼らの諸行為や発話にみられる自己意識の再構築、そしてそうした彼らの自己意識の再構築によるジェンダー関係への影響を論じた。そこでは、イタリアへの男性移住者たちが、「親族や同郷者に頼られる存在」など、様々な形で自己構築をしていること、また出身地社会におけるギャンブルでの大胆な賭けなどを通して、移住経験を肯定的な経験へと転換していること、しかしそれらの行為を通して既存の特定の男性性が温存されていることなどを指摘した。この論考は、論文集の1章として2021年3月に公刊された。また、2018年3月にイタリアで実施した補充調査の資料を用いて、2020年10月から11月にかけて、フィリピンでヨーロッパで就労する家事労働者の子どもとして生まれ育ち、その後イタリアおよびフランスへと移住した若者移住者たちと、それら若者移住者を養育したフィリピンの里親との関係に関する共著論文を執筆した。当該論文は、2021年3月にブラジルの大学が刊行する子ども研究に関するウェブジャーナルに掲載された。
|