本研究では「交通と交流」をキーワードに、近現代対馬における生活実態の解明を試みた。今日、対馬は「国境の島・日韓交流の島」として知られている。その背景には朝鮮半島に近接する地理的環境に加え、「日韓交流」を利用した観光振興策の存在も見逃せない。なかでも南部・厳原で開催される「朝鮮通信使行列」パレードの存在は、史実としての通信使が有する善隣友好イメージとも相まって大きな役割を果たしてきた。 だが、このような対馬観は、韓国併合による国境の消滅や敗戦による国境の再形成といった近代の大変動を捨象している。また、実際の対馬は多数の小地域からなる複合体社会であり、今日においても集落単位・旧自治体単位でのまとまりを意識する傾向が強い。本研究ではこのような対馬の多様性・多層性に着目し、近現代における「国境の島・対馬」の総体的把握を試みた。 まず、島外との交流については、「朝鮮通信使行列」パレード、そして同種のパレードを集客の目玉として島外各地に普及・拡散させてきた全国ネットワーク「朝鮮通信使縁地連絡協議会」(通称「縁地連」)を対象に参与観察調査を実施した。 一方、島内での交流については、主要港を持つ厳原・比田勝との関係を中心に島内各地で聞き取り等を行った。この過程で昭和30年代前後から昭和60年代にかけて撮影された島内写真(ネガ・スライド等)を入手し、デジタル化を行った。助成期間終了後にはなるが、今後、撮影場所や被写体の同定を進める予定である。 その他、2000年代以降急増した韓国からの来島観光客が地域社会に与える影響についても、特に、2019年7月以降顕著になった「NO JAPAN」運動の影響について現地調査を実施したほか資料収集を継続している。対馬の場合、NO JAPAN運動の影響が強く残る中で新型コロナ禍が加わったため、助成期間終了後にはなるが、今後も調査を継続する予定である。
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