研究課題/領域番号 |
17K03287
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
古谷 嘉章 九州大学, 比較社会文化研究院, 教授 (50183934)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 文化人類学 / 先史文化 / 縄文文化 / ローカリティ / ナショナリティ / 世界遺産 / 地域振興 / 現代アート |
研究実績の概要 |
Ⅰ 本研究を補完するものとして学会出張を利用して仙台市の「地底の森ミュージアム」と「縄文の森広場」において、都市部(住宅地内)における縄文文化の現代的利用の取組みの可能性と問題について調査を行った[2019.6.1-6.2]。 Ⅱ.『第19回縄文コンテンポラリー展inふなばし』(飛ノ台史跡公園博物館)の実態調査[2019.7.21]。①同展の展示および「縄文アートまつり」の調査、②同展カタログへの同展を分析した評論「不在のものの現前:廃墟・劇場・仮面」(和文)とその英訳「Presentation of the Absent:Ruins, Theaters, and Masks」の執筆。 Ⅲ.国立歴史民俗博物館(千葉県佐倉市)における「リニューアルされた先史・古代展示」ならびに展示担当者による講演についての実態調査、および「縄文文化の現代的利用」に関わる活動を行っているアーティスト2名へのインタビュー[2019.9.14]。 Ⅳ.東京藝術大学における『藝大で縄文について語ろう』というパネルディスカッションへの問題提起パネラーとしての参与と観察および同イベントのパネラーならびに参加者へのインタビュー調査、および岡本太郎記念館(東京都)において常設展示および『日本の原影』展における「縄文文化の現代的利用」について実態調査[2019.11.23-25]。 Ⅴ.「先史文化の現代的利用」についての本研究に先行する科研費による研究および本研究の2年目までの成果を単著『縄文ルネサンス:現代社会が発見する新しい縄文』(平凡社、2019.12月)として公刊し、本研究の残り2年間の研究方向についての展望を開いた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、日本各地で今世紀に入って活発化している「縄文文化の現代的利用」の実態について、文化人類学的調査によって具体的かつ詳細に明らかにすることを目的としており、令和元年度には、以下のような多面的な調査研究を実施することができた。 ①従来より継続して定点調査の対象としている「縄文コンテンポラリー展inふなばし」において実態調査を行い、『遺跡のアート劇場』をメインテーマとしてイタリア人作家の作品を中心とした展示について、来日したイタリア人作家との懇談を通じて日本との比較考察を試み、その成果を同展カタログに日本語および英語の評論として発表した(なお同評論は参加イタリア人作家によって英語からイタリア語へと翻訳されイタリアのアーティストの間で回覧される栄に浴した)。 ②新規に日本各地(佐倉市、東京都、仙台市)の遺跡および博物館における展示等について「縄文文化の現代的利用」の観点から調査を行い、その出現形態の多様性について具体的な知見を広めることができた。 ③従来より本研究に御協力いただいている先史遺物修復家兼アーティスト石原道知氏および堀江武史氏とともに『藝大で縄文について話そう』(東京芸大)というイベントを企画し、縄文文化を専門とする重鎮の考古学者や「縄文文化の現代的利用」に従事する多彩なアーティストに御参加いただき、現状について幅広く深い理解を得ることができた。 ④これまでの研究の成果を『縄文ルネサンス』(平凡社)として公刊することができ、それによって今後の研究の展開のための確実なスプリングボードを築くことができた。なお同書は日本経済新聞、週刊読書人、西日本新聞等で好意的な書評が掲載された。 以上の研究成果および、日常的に継続している関連ニュースのアーカイブ構築、関連文献の購読をつうじての理論研究は、総合的にみて「おおむね順調に進展している」と判断する根拠となる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度(令和2年度)は、『北海道・北東北の縄文遺跡群』の世界遺産認定にむけてのユネスコへの推薦を経て、推進事業が活発化するとともに、日本博等をつうじて「東京オリンピック・パラリンピック」を舞台とする、縄文文化の世界発信も期待されていたところであるが、新型コロナウィルス蔓延に起因する「緊急事態宣言」などのために、日本社会のみならず世界的に非日常的状態が出現し、今後の事態の推移については、確たる展望をもつことは難しい。そうした中にあって、①「縄文文化の現代的利用」の展開についての日常的なフォローと関連領域についての理論的研究を着実に積み上げることに力を注ぐ。②船橋市で7月から9月の期間に予定されている第20回の「縄文コンテンポラリー展inふなばし」、茅野市で10月に計画されている「八ヶ岳JOMONライフフェスティバル」等について重点的に実態調査をおこなう。③『北海道・北東北の縄文遺跡群』の世界遺産認定へのプロセスについて、実態調査を含めた研究を継続し、特に17か所の構成資産の現状のあいだの差異について明らかにする。④まだ実態調査を実施していなかった地域(特に山梨県および茅野市以外の長野県)において実態調査を行い、「縄文文化の現代的利用」の地域的多様性について深く理解し、ローカリティとナショナリティの節合様態について明らかにする。⑤先史文化の現代的利用におけるローカリティとナショナリティの節合様態についての比較対照例として、ブラジルアマゾンにおける考古遺産をめぐる状況について、実態調査を含めた研究を行う。⑥「先史文化の現代的利用」についての理論的研究を論文として公刊する。 新型コロナウィルス感染の蔓延がもたらす予期せぬ障害によって本研究が停滞することのないよう、状況に応じて研究計画を柔軟に調整しつつ、本来の目的を達するよう努めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
「北海道・北東北の縄文遺跡群」の世界文化遺産認定をめざすプロセスが、当初の予想より遅れ、令和3年夏のユネスコの世界遺産委員会での認定が見込まれる状況となったため、それに関係する調査を令和2年度に実施するよう変更し、令和元年度の支出を控えた。さらに令和元年度に予定していたブラジルにおける実態調査を、現地における研究集会開催の可能性が生じたため、それとの日程調整もあり、令和2年度実施へと変更したため。いずれにせよ、外的状況の変化が原因で実施時期にズレが発生したことが理由であり、新型コロナウィルスをめぐる状況は予断を許さないとはいえ、現段階では、令和2年度には予定通りに使用できることを見込んでいる。
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