本研究の目的は、日本軍がかつて占領した中国少数民族地域を研究対象地域として、文献調査だけでなく、日本軍占領を実際に見聞きした人びととその遺族の証言を可能なかぎり収集することによって、日本軍の皇民化政策(主に対回民宣撫・懐柔工作)の全体像を浮き彫りにしながら、個々人の植民地経験を丹念に記述し、証言者や研究者の様々な解釈を参照しながら多声的民族の記述および共有(例えば、データベース化、冊子刊行)を目指す。 2019年度の外国出張では内モンゴル自治区フフホト市および北京市において文献調査および回族の関係者に対するインタヴュー調査を実施した。内モンゴル自治区フフホト市の回民区、北京市の牛街、馬甸などを訪問し、1945年以前の状況に詳しい回族の郷土史家や古老に対してインフォーマルなインタヴュー調査を実施した。今回のインタヴュー調査は知識人層に限定したものではあるが、日本軍占領期の清真寺や回民の生活状況(例えば、牛羊業、屠畜業、牛羊肉業)、中国回教総聯合会の関係者(例えば、北京の宗教指導者、地元有力者)に関する詳細な口述資料を収集することができた。また、内モンゴルでは歴史研究者が執筆した文献資料を入手し、日本軍占領期と日本軍徹底後にみられる歴史・社会変容を史料に依拠して具体的に把握することができた。このような口述資料や史料は中国の公的な資料とは異なり、民衆の歴史認識を反映したものが多く、資料的価値が非常に高い。このように、本研究では清真寺関係者や郷土史家の協力を得て、日本軍占領期以降の清真寺や回民社会の変遷を確認しながら、回民の人々が日本軍主導の皇民化政策をどのように認識しているのかを可能な限り把握することができた。最終年度の調査・研究成果は成果報告書として出版し、日本の研究者および中国の情報提供者に配布した。
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