研究課題/領域番号 |
17K03294
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研究機関 | 成城大学 |
研究代表者 |
関口 由彦 成城大学, 民俗学研究所, 研究員 (30538484)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | アイヌ民族 / ライフストーリー / 日常的エスニシティ / 非同一性 / マイノリティ |
研究実績の概要 |
本年度は、昨年度のライフストーリー調査のデータを丹念に読み込み、当事者たちが語るアイヌとしての(あるいはアイヌ文化伝承活動への)〈想い〉を日常生活に根差した文脈のなかで捉え直した。その〈想い〉は、アイヌの人々であれば誰もが共有するといった同質的な全体性を意味するものではなく、ひとりひとりの生活の文脈に根差したズレを伴いながら固有性を保持するものであった。このような検討は、平成29年度のアイヌ文化伝承活動の場の参与観察によって明らかになった、当事者たちを日常生活に根差した馴染みの関係性の中に組み込んでいくアイヌ文化伝承活動の〈場〉の特質と組み合わせて総合的に捉えることにつながった。これによって「日常的エスニシティ」の理論化への道が拓かれた。 "非同一性の連鎖"という共同性としての「日常的エスニシティ」は、ズレと固有性を保持した〈想い〉の類似性を基礎とするアイヌの人々の関係性と、アイヌと和人の間の境界横断的なつながり――差異を無化することなく縮約するつながり――を創出する〈生活者〉としての類似性を基礎とした関係性によって形成されている。 それは、〈個〉が全体の同一性の中に溶かし込まれる共同性(ネイション)へと向かうことに抗い、〈個〉の固有性を保持したまま"非同一性の連鎖"という共同性を形成するものである。そのため、「民族」をめぐる本質主義と構築主義の対立が陥るアポリアを乗り越え、特にマイノリティの社会運動が陥りやすい"異質化の罠"や戦略的本質主義の問題を回避し、来るべきマジョリティ/マイノリティの共生への道筋を示すことに貢献する。そして、多文化主義への批判やインターカルチュラリズムという主張を参照したうえで、現代日本の"多文化共生"の構想に具体的な示唆を与えるものとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、様似町での追加調査等を行い、上記テーマを深めることとなった。さらに、現在のアイヌ文化伝承活動において最も大きな動きともいえる北海道白老町の「国立アイヌ民族博物館」及びそれを含む「民族共生象徴空間(愛称:ウポポイ)」の開業準備状況を当該博物館の研究員としての立場で詳細に観察する機会を得ることができ、本テーマの有効性を確信するに至った。
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今後の研究の推進方策 |
「国立アイヌ民族博物館」及びそれを含む「民族共生象徴空間(愛称:ウポポイ)」の開業後の状況を追跡調査していくことで、本研究が提示した「日常的エスニシティ」概念の理論的射程・有効性を確かめていく。そして、この概念が民族共生象徴空間」の理念の実現にいかに貢献し得るかを検討していく。さらに、多文化主義の再考や現代日本の"多文化共生"の構想に寄与することを目指して、他のマイノリティとの比較研究を行っていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度に所属の異動が生じ、当初予定していたよりも多くの他業務を行わなければならなくなり、計画通りの研究遂行が困難となった。また、新型コロナウイルスの影響で対面的なインタビューが不可能となり、調査が計画通りに実施できなかった。 以上の理由から研究期間を延長し、遂行できなかった研究・調査を本年度に行う。
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