研究代表者は2019年度大阪大学国際公共政策研究科に博士論文を提出し、2020年1月受理された。論題は、「インドネシアにおけるアブラヤシ農園開発をめぐる土地紛争の研究――共有地権とヘゲモニー関係の分析――」であり、その第II部「アブラヤシ農園開発をめぐる土地紛争の実態」の第6章「違法入植者に土地権はあるのか――クリンチ・スブラット国立公園の事例分析」において、本課題による研究成果をまとめることができた。 博士論文執筆の予備的考察として、JANNI(日本インドネシアNGOネットワーク)の機関誌『インドネシアニュースレター』に2回にわたりフィールドワークの記録を公表した。一つは、「開発で危機に瀕するクリンチ・スブラット国立公園」(2016年、第93号)であり、もう一つは「クリンチ・スブラット国立公園のスクウォッター」(2017年、第96号)である。 インドネシアでは、国立公園や生態系保護区に違法入植者が多数見られ、彼らの存在が生態系の保全上重大な影響を及ぼしているだけではなく、土地紛争解決の大きな障害となっている。違法入植の背後にインドネシアの地方政治の闇があり、彼らの存在が問題解決をさらに複雑にしている。こうした入植者を力ずくで追い出すべきのなのか、あるいはその存在を認めて彼らに土地権を認めるべきなのかは大きな政治的決断を要する。 博士論文では、2010年代以降提唱されるようになった社会林業のプログラムにこうした違法入植者を位置づけ、一代限りの生活を認めるが、彼らの子孫は国立公園の外で生活をするよう指導していく解決策を提示している。
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