研究課題/領域番号 |
17K03297
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
中川 理 立教大学, 異文化コミュニケーション学部, 准教授 (30402986)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | グローバリゼーション / 主権 / 難民 / 平等性 |
研究実績の概要 |
理論的検討とフィールドワークの両面から、研究課題である国家と難民出身のモンの関係について今後の研究の基礎となる検討を行った。 理論に関しては、とくに「主権」の人類学について検討を行い、その成果の一部を『Lexicon 現代類学』に所収の「主権」「価値と倫理」として発表した。また、グローバリゼーションと国民国家の関係についての研究を主導する人類学者アパドゥライの理論の今日的含意について検討し、『はじめて学ぶ文化人類学』所収の「アルジュン・アパドゥライ」として発表した。さらに、より広く国家についての人類学的研究をレビューした「国家とグローバリゼーション:『国家のない社会』を想像する」を執筆した。同論文は『文化人類学の思考法(仮)』(世界思想社より刊行予定)に所収される。これらの論文を通して、本研究課題の主要概念である「部分的主権」および「ポストナショナルな想像力」の位置づけを明確化した。 並行して、フランスおよびフランス領ギアナで二回のフィールドワークを実施した。2017年8月26日から9月17日にかけては、南フランスのニーム周辺地域において調査を実施した。この調査では、モン農民と国家の関係、モン・コミュニティ内での平等性とヒエラルキーについて主に情報を収集した。2018年3月7日から26日にかけてはフランス領ギアナで調査を実施した。この調査では、同地でのモン・コミュニティの現状についての基本的データを収集するとともに、地方政府や他の民族集団との関係性について調査した。とりわけ、フランス本土からの新規モン移住者の状況について、今後につながる貴重な情報が得られた。予備調査および8~9月の調査を整理し、論文「移民と国民の連続性:フランスのモン(Hmong)の事例から」を執筆した。同論文は『強制的な移動/流動 (仮)』(晃洋書房より刊行予定)に所収される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
以下のような理由から、本研究課題はおおむね順調に進展しているといえる。 南フランスでのフィールドワークは、課題採択以前の予備調査において現地の研究協力者との関係が十分に構築されていたため、本研究課題が対象とする「統治をかわす実践とその認識」や「平等性とヒエラルキーの動態」といった困難を伴う主題についての情報を順調に入手することが可能であった。本年度に執筆した論文「移民と国民の連続性:フランスのモン(Hmong)の事例から」は、ここで得られた情報によって執筆することができた。ただし、一度目のフィールドワークでは十分に入り込めない(とくに宗教的実践などの)側面もあったため、二回目以降のフィールドワークにおいてより深く追求する必要があることも明確化したといえる。フランス領ギアナでの調査ははじめてであったが、研究協力者の大きな貢献によって、現地での社会関係を構築するとともに基礎的なデータを得ることができた。同地での調査はまだ初期の段階にあり研究成果を発表できるまでには達していないが、今後の調査進展のために必要な基礎を十分につくることができた。 理論的検討では、予定されていた通りに「主権」の人類学に関する検討を行い、論文執筆を通して本研究課題の理論的枠組みの構築を進めることができた。この理論的枠組みでフィールドで得られたデータを分析していくことが今後の課題になる。そのためには、「平等性とヒエラルキー」に関しても理論的検討を進める必要があると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
フィールドワークに関しては、南フランスおよびフランス領ギアナの両フィールドにおいて、これまで得られたデータと社会関係をもとに、より詳細なデータを収集する予定である。南フランスでは、(a) モン農民の農業実践と国による管理、(b) モン・コミュニティにおける平等性とヒエラルキーについてのデータを、聞き取りと参与観察を通して収集する。とりわけ、(b)については、アソシエーション活動および宗教的諸実践に注目して、前回の調査では得られなかった情報を補充する。フランス領ギアナでは、第一回の調査で構築した社会関係を基礎に、フランスから新規に移住してきたモンについての調査を推進する。移住者のライフ・ヒストリーの聞き取りを実施するほか、フランス領ギアナの既存のモン・コミュニティとの関係性や、新規住民が開拓した集落における社会関係、地方政府や他の民族集団との関係性についても調査を進める。これらの調査を通して、モンが国家との関係をどのように理解しているか、モンがどのようなトランスナショナルな関係性を構築しているかという点について理解を進める。 理論的側面においては、「平等性とヒエラルキー」に関する理論的検討を行う。これまで行ってきた「主権」の人類学についての理論と「平等性とヒエラルキー」の問題を接合することで、本研究課題の理論的枠組みをより発展させる。この理論的枠組みを用いて、フランス・ニーム周辺地域での調査成果をもとに、第52回日本文化人類学会研究大会にて発表を行う。さらに、発表内容を発展させ、ここまでで得られたデータに対する解釈の提示を目的とした論文を執筆する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年3月に行った調査に要した経費のうち一部の会計処理を年度内に行うことができなかったため、書類上この差額が生じているが、使用計画に変更はない。フィールド調査の旅費などに使用する。
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