研究課題/領域番号 |
17K03297
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
中川 理 立教大学, 異文化コミュニケーション学部, 准教授 (30402986)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | グローバリゼーション / 主権 / 難民 / 平等性 |
研究実績の概要 |
2018年度は、ラオスから難民としてフランスに移住した少数民族であるモン(Hmong)が、どのように国家と交渉しながら自律的な領域を作っているのかを明らかにするという全体の研究目的へ向けて、前年度の研究成果を発表するとともに、さらなるフィールドワークおよび理論的検討を実施した。 2017年度に実施した2度のフィールドワークに基づき、第52回日本文化人類学会研究大会において「『植え替えられた』平等主義」のタイトルで発表を行った。本発表は、難民としてフランスに来たモン(Hmong)農民が、どのようにして平等性とヒエラルキーという二つの社会イメージのあいだの葛藤を生きているかを記述的に明らかにするものである。また、『移動する人々:多様性から考える』を共編し、その中で人の移動研究をアプローチを検討した「移動のイメージを豊かにするために」と、フランスのモン難民に対する理論的アプローチを精査した「移民と国民の連続性:フランスのモン(Hmong)の事例から」を発表した。 並行して、フランスにおいてフィールドワークを一度実施した。2018年10月25日から11月16日にかけて、南フランスのニーム周辺地域において調査を実施した。この調査では、モン農民と国家の関係、モン・コミュニティ内での平等性とヒエラルキー、およびフランス領ギアナのモンとの関係性について、主に情報を収集した。2019年4月20日から5月20日にかけてフランス領ギアナで実施する調査におけるデータと合わせて、ここまでの調査の成果の一部をまとめ、第53回日本文化人類学会研究大会において「部分的アナキズム」のタイトルで発表する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
以下のような理由から、本研究課題はおおむね順調に進展しているといえる。 南フランスでのフィールドワークは、すでに十分に構築された現地の研究協力者との関係に基づき、順調にデータ収集を継続できている。「統治をかわす実践とその認識」および「平等性とヒエラルキーの動態」については、これまでの成果を第52回日本文化人類学会研究大会において発表したが、その後もデータを蓄積できており、それらは第53回日本文化人類学会研究大会の発表に盛り込まれる予定である。また、これまでアクセスが困難であった宗教的実践についても徐々に研究協力者との関係が構築できており、今後いっそうのデータの収集が見込める。フランス領ギアナでの調査は研究代表者の体調の事情により2018年度内には実施できなかったが、2019年4月20日から5月20日に実施するため、実施予定期間に数カ月のずれが生じるだけで大きな遅れとはならない。仏領ギアナでは、前年度のフィールドワークにおいて研究協力者との関係構築が進んでおり、それに基づきフランスから新規に移住してきたモンについての調査を推進する。 理論的検討では、「平等性とヒエラルキー」についての検討を進め、その一部を第52回日本文化人類学会研究大会において発表することができた。さらに二本の論文を執筆し、それらは2019年度中に発表される予定である。現時点までは順調に進行しているため、今後は「主権」の問題系と「平等性とヒエラルキー」の問題系の統合、および調査データとの結合を進めていくことを予定している。
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今後の研究の推進方策 |
フィールドワークに関しては、これまでのフィールドデータがさらに「厚く」なるように充実させていく方針である。南フランスでは、(a) モン農民の農業実践と国による管理、(b) モン・コミュニティにおける平等性とヒエラルキーについてのデータを、聞き取りと参与観察を通して収集してきた。これらは当事者にとって必ずしも話しやすい主題ではないため、一度に多くのデータを得ることは難しい。これまで構築してきた研究協力者との関係を通して、粘り強くデータ収集を継続する。この点に関して、フランス領ギアナでは現在もまだ研究協力者との関係構築の途上にある。フィールドワークに必然的にともなう不確実な状況のなかにあって、慎重かつ着実に関係構築を前進させていく必要がある。それによって、移住者のライフ・ヒストリー、フランス領ギアナの既存のモン・コミュニティとの関係性や、新規住民が開拓した集落における社会関係、地方政府や他の民族集団との関係性についてのデータ収集を推進する。 理論的検討に関しては、2017年度に「主権」、2018年度に「平等性とヒエラルキー」についての検討を行ったため、今後はこれら二つの問題系の統合と発展をすすめ、さらに調査データとの結合によって中間成果としてまとめていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年3月に予定していたフランス領ギアナでの調査が、研究代表者の体調の事情により2019年4月20日から5月20日に延期となった。次年度使用額が生じたのはこの事由による。使用年度は2019年度となったものの、予定通りの調査費用として使用する予定であり、全体計画に変更はない。2019年度分として請求した助成金に関しては、フランス領ギアナでのもう一度の調査およびフランスでの調査に使用する。
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