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2019 年度 実施状況報告書

難民出身のモン(Hmong)と国家に関する人類学的研究

研究課題

研究課題/領域番号 17K03297
研究機関立教大学

研究代表者

中川 理  立教大学, 異文化コミュニケーション学部, 准教授 (30402986)

研究期間 (年度) 2017-04-01 – 2021-03-31
キーワードグローバリゼーション / 主権 / 難民 / 平等性
研究実績の概要

本研究課題は、ラオスから難民としてフランスに移住した少数民族であるモン(Hmong)を対象とし、①モンと国家との関係性(とりわけモンの国家に対する相対的自律性)、②モン・コミュニティ内の平等性とヒエラルキーの動態、③モンのトランスナショナルなネットワークの三点を、相互に関連付けて理解することを目的としている。2019年度は、①に関する中間的考察をまとめて発表するとともに、③により重点をおいたフィールドワークを実施した。
まず、「国家とグローバリゼーション」と「アナキズムと人類学」の二つの論文を発表し、そこにおいて①の論点について検討するための理論的枠組みを明確にした。その上で、日本文化人類学会第53回研究大会において「部分的アナキズム:フランスのモンの事例から」を発表した。この発表は、在仏モン農民の国家との関係を、現実には部分的であるにもかかわらず概念化のレベルでは全面的なものとして想像される「部分的アナキズム」として分析したものである。
これらの発表と並行して、三回のフィールドワークを実施した。2019年4-5月および2020年3月の仏領ギアナの調査では、青果市場およびモンが近年に開拓した複数の集落で調査を実施し、集落形成の歴史、住民の親族・社会関係、地方政府や他民族集団との関係、住民のライフヒストリーについての理解を進めた。また、2019年8-9月にはフランス南部においてモン農民のジェンダー関係に重点をおいて調査を実施し、モンにおけるトランスナショナルなネットワークと平等性との関係を理解するためのデータを得た。これらは、本研究の上記三つの課題を今後まとめていくうえで、重要なデータとなる。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

2019年度に行ったフィールドワークでは研究課題の進展に有用なデータが多く得られたが、コロナウィルスの世界的流行に起因する障害のため、いくつかの点で想定していた地点まで調査を進めることができなかった。2020年3月の調査では、仏領ギアナでのフィールドワークの後、フランス南部においてもフィールドワークを実施する予定であった。しかし、フランス政府によって外出禁止令が出されたため、急遽滞在を中断して帰国することとなった。仏領ギアナでは調査計画の多くを実施することができたが、フランス南部で予定していた調査については実施を断念した。とりわけトランスナショナルなネットワーク(ラオスへの訪問、結婚、送金)および宗教的実践に関わる項目については、2020年度に調査を実施するために再調整する必要がある。しかし、フランスと日本の状況によっては、2020年度の早期に調査を実施することは困難になる可能性がある。その点を考慮しつつ計画の再検討を行う。
理論的検討に関しては、2017年度に「主権」に関する検討を論文として発表し、2019年度にはこれまで行ってきた「平等性とヒエラルキー」に関する検討を論文として発表することができたという点で、おおむね順調に進展している。現在、両者を統合するための枠組構築を進めている。

今後の研究の推進方策

フィールドワークに関しては、これまでの調査から新たに見えてきたポイントについての調査を重点的に実施し、これまでのデータと結びつけて分析することで研究を進展させる方針である。2019年度の調査では、モンにおけるジェンダー関係の理解と、在仏モンの出身国であるラオスとの経済的不平等の理解が、モンの平等性がはらむ矛盾を理解するうえで重要なポイントであることが明確になった。また、仏領ギアナでの調査が進展するにつれて、フランス本土と仏領ギアナのモンのあいだの交流が想定していたより複雑であることが明らかになってきた。これらの点についてさらに調査を進めることで、これまでの分析を深化させ、研究課題全体に関する包括的な考察へと結びつける。ただし、コロナウィルスをめぐる状況次第では調査が実施できないため、その場合には再検討が必要となる。
理論的検討に関しては、「主権」と「平等性とヒエラルキー」に関するこれまでの考察をまとめるために、「自由」の概念を中心とする考察が有効であるかを検討する。これを調査から得られる考察と結びつけ、本研究課題全体の結論を導く。

次年度使用額が生じた理由

2020年3月に実施した仏領ギアナでの調査経費の一部が次年度に会計処理されるため、次年度使用額が生じた。また、この調査は当初2020年3月1日~3月28日に仏領ギアナとフランスで実施する予定であったが、コロナウィルスの流行により調査を中断し、フランスでの調査を行うことができなかった。その経費として予定していた額を次年度に繰り越した。予定していた項目に関する調査を、次年度のフランスでの調査に組み込んで実施する予定であるため、その経費として使用する。ただし、コロナウィルスのため調査が困難となる場合には、計画を変更する必要がある。

  • 研究成果

    (8件)

すべて 2020 2019

すべて 雑誌論文 (2件) (うちオープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) 図書 (3件)

  • [雑誌論文] あらぬ方向:業績紹介に代えて2019

    • 著者名/発表者名
      中川理
    • 雑誌名

      くにたち人類学研究

      巻: 13 ページ: 3-6

    • オープンアクセス
  • [雑誌論文] 左地亮子著『現代フランスを生きるジプシー:旅に住まうマヌーシュと共同性の人類学』2019

    • 著者名/発表者名
      中川理
    • 雑誌名

      文化人類学

      巻: 84(3) ページ: 355-358

  • [学会発表] 「可能なもの」と「可能にするもの」の人類学2020

    • 著者名/発表者名
      中川理
    • 学会等名
      国立民族学博物館共同研究会「人類学を自然化する」
  • [学会発表] 部分的アナキズム:フランスのモンの事例から2019

    • 著者名/発表者名
      中川理
    • 学会等名
      日本文化人類学会第53回研究大会
  • [学会発表] エスノリベラリズム・リベラリズム・ネオリベラリズム2019

    • 著者名/発表者名
      中川理
    • 学会等名
      国立民族学博物館共同研究会「ネオリベラリズムのモラリティ」
  • [図書] 『文化人類学の思考法』(松村圭一郎・中川理・石井美保「世界を考える道具をつくろう」)2019

    • 著者名/発表者名
      松村圭一郎、中川理、石井美保(編著)
    • 総ページ数
      224(1-13)
    • 出版者
      世界思想社
    • ISBN
      9784790717331
  • [図書] 『文化人類学の思考法』(中川理「国家とグローバリゼーション:国家のない社会を想像する」)2019

    • 著者名/発表者名
      松村圭一郎、中川理、石井美保(編著)
    • 総ページ数
      224(111-123)
    • 出版者
      世界思想社
    • ISBN
      9784790717331
  • [図書] 『現代思想』47(6) 5月臨時増刊号「現代思想43のキーワード」(中川理「アナキズムと人類学」)2019

    • 著者名/発表者名
      中川理(他)
    • 総ページ数
      246(128-133)
    • 出版者
      青土社
    • ISBN
      9784791713806

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公開日: 2021-01-27  

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