研究課題/領域番号 |
17K03297
|
研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
中川 理 立教大学, 異文化コミュニケーション学部, 准教授 (30402986)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | グローバリゼーション / 主権 / 難民 / 平等性 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、ラオスから難民としてフランスに移住した少数民族であるモン(Hmong)を対象とし、①モンと国家との関係性(とりわけモンの国家に対する相対的自律性)、②モン・コミュニティ内の平等性とヒエラルキーの動態、③モンのトランスナショナルなネットワークの三点を、相互に関連付けて理解することを目的としている。2020年度は、前年度までに実施したフィールド調査の成果をまとめて発表するとともに、理論的枠組としての自由概念に対する人類学的アプローチの可能性を検討して論文として発表した。 調査の成果については、日本文化人類学会第54回研究大会において「エスノリベラリズムとその矛盾:フランスのモン農民の経験から」として発表した。この発表は、自由を強調するモンの理念を「エスノリベラリズム」としてとらえ、それが他者の従属という矛盾によって成立していることを、おもにフランス在住のモン男性が出身国に旅して若い女性と結婚するという現象の分析を通して明らかにした。また、このような事例を扱うには、不自由をもたらす何かとして文化をとらえる枠組みに代えて、人々の生を可能にするつながりに注目する必要があるという議論を、論文「自由」にまとめ『文化人類学のエッセンス』に発表した。これらの成果は、研究計画を大きく前進させるものである。 しかし、新型コロナウィルス感染症による渡航制限のため、2020年度に仏領ギアナとフランスで予定していたフィールドワークの実施は取りやめざるを得なかった。このことにより、研究計画を予定通りに完遂することはできなかった。そのため、補助事業期間の延長を申請し、研究全体のまとめは2021年度に実施することとした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウィルス感染症による移動の制限により2019年度に予定していた調査の一部を延期し、当初から2020年度に実施を予定していた調査と合わせて実施する計画であったが、2020年度も移動制限が継続したため断念せざるを得なかった。そのため、とりわけトランスナショナルなネットワーク(ラオスへの訪問、結婚、送金)、宗教的実践、ジェンダー関係など調査を予定していた項目について、また、その他の追加調査を予定していた項目についても、必要な情報を得ることができなかった。これにより、データの蓄積や分析など研究計画の進捗にやや遅れが生じている。その一方、理論的枠組みの構築については、おおむね順調に進展している。研究計画全体の遂行のために補助事業期間を一年間延長したが、今年度も予定していた調査が実施できない可能性も想定し、研究計画の見直しを行っている。
|
今後の研究の推進方策 |
新型コロナウィルスをめぐる状況が改善し海外調査が可能な状況になった場合、現状において必要な情報(トランスナショナルなネットワーク、宗教的実践、ジェンダー関係、その他の追加調査を予定していた項目に関する情報)を得るためにフィールドワークを実施する。もし調査が不可能である場合には、現在までに得たデータで可能な範囲で、①モンと国家との関係性、②モン・コミュニティ内の平等性とヒエラルキーの動態に対象を絞りこんで分析を行い、前年度までに行った「主権」、「平等性とヒエラルキー」、「自由」に関する理論的検討と合わせて研究全体をまとめる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2019年度の調査の一部および2020年度の調査が新型コロナウィルス感染症の流行により実施できなかったため、調査経費として予定していた額を2021年度に繰り越した。これらの調査は2021年度に持ち越して実施する計画であるため、その経費として使用する。ただし、再び調査が困難な状況となった場合には、執行計画を変更する予定である。
|