研究期間内で計3回仏領ポリネシアでの人類学的調査を、ツアモツ諸島ハオ環礁、アマヌ環礁、タタコト環礁、プカルア環礁、レアオ環礁、ソサエティ諸島タヒチ島において行った(ハオ環礁では2回、東ツアモツのハオ以外の環礁では1回、タヒチ島では3回)。なかでも核実験期に前進基地であったハオ環礁での調査に力を入れた。ハオにおいて最も問題となっていたのは、核実験が終了しフランス軍が撤退した後の基地経済に代わる事業としての養魚場プロジェクトであったため、そのプロジェクトを中心に調査した。同時に、核実験時のハオ環礁での暮らしについて聞き取り調査を行い、生活物資、インフラ、仕事などにみられる核実験期からの変化が現在の住民の暮らしにどのような影響を及ぼしているかを、参与観察を通して調査した。 ハオ環礁では、住民が核実験による環境・健康被害を抱えながら、地域再建を目指し開発事業に従事するのには、核実験以前の伝統的な生活ではなく、西欧の物資が入り、経済的に豊かであった核実験期の生活を取り戻すためであること、さらには、ハオ環礁住民であっても、個々の核実験の影響の受け取り方が異なることがわかった。また、同じ東ツアモツであってもハオ環礁周辺の環礁は核実験期の役割や受けた経済的影響の規模が異なり、住民の核実験期の経験や現在タヒチ本島で展開する反核運動への関わり方にも違いが出ることがわかった。タヒチ本島においては核実験施設の元労働者支援団体Moruroa e Tatauとポリネシア人の放射能被ばくによる健康被害への賠償を求める団体L'Association 193の活動について関係者に聞き取りをし、会合等に参加して調査をした。Moruroa e Tatauが過去に実施したインタビュー資料の調査もした。
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