研究課題/領域番号 |
17K03301
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研究機関 | 同志社女子大学 |
研究代表者 |
大西 秀之 同志社女子大学, 現代社会学部, 教授 (60414033)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | アイヌ文化 / 文化資源 / 歴史遺産 / エスニシティ / 景観保護 / 史跡公園 / 公共人類学/考古学 / 文化財行 |
研究実績の概要 |
本年度は、まず北海道日高地方に位置する平取町二風谷地区において「イオル(伝統的生活空間)再生事業」を中心とする文化的景観に関連する現在までの取り組みに関して聞き取りを行い、同事業の具体的内容など概要を把握することができた。これに加え、日高管内13の博物館を訪問・見学するとともに、各館所蔵のアイヌ民具などの資料の来歴やアイヌ文化の振興に関する取り組みの情報収集を行うことができた。これらの調査により、本研究費で実施しているポー川史跡自然公園を中心とする標津町での事例と比較する情報を得ることができた。 また国立アイヌ民族博物館準備室では、同準備室の現況や業務内容を把握することができ、標津町での調査事例の位置づけを考える情報を得ることができた。また昨年度に引き続き、ポー川史跡自然公園で現地のアイヌ系住民の方々が開催されたイチャルパや縄文祭りを見学した。これらの調査は、過去4年間実施し毎年観察を行っているが、その結果ポー川史跡自然公園や同イチャルパを巡る社会状況の変化を捉えることができた。 以上のような現地調査を基に、本年度は、次のような研究成果を公開・提示することができた。まず弘前大学で開催された日本文化人類学会第52回研究大会に おいて標津町での現地調査に基づく口頭発表を行い、その成果の一端を提起した。またマレーシア・ペナン(マレーシア科学大学)で開催される国際先住民会議(CHAGS)12で、アイヌ文化の歴史遺産を対象とした公共人類学・考古学をテーマとしたセッションを主宰するとともに、個人でも口頭発表を行った。これに加え、千葉県鴨川市で開催された生態人類学会第24回研究大会においてポスター報告を実施した。この他、本研究に関連する学術論文数編が査読制の学会誌や一般書籍の論集などに掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、北海道日高地方の平取町において本研究の申請時に計画していた現地調査を実施することができた。具体的には、同町内の二風谷地区において推進されている「イオル(伝統的生活空間)再生事業」を中心とする文化的景観に関連する現在までの取り組みに関して、現地の研究・行政機関の担当者の方々に聞き取り調査を実施し、当該地域におけるアイヌ文化の歴史遺産に関する知識や認識を収集することができた。この調査により、北海道内で最も先駆的にアイヌ文化の歴史遺産を文化的景観として位置づけ保護し活用しようとする取り組みの概要を把握することができた。またこうした成果は、本研究の主要な対象であるポー川史跡自然公園を中心とする標津町におけるアイヌ文化の歴史遺産の特徴やその活用を考える上で貴重な比較・参照事例となった。 いっぽう、本年度は、国内外の学会で2回の口頭発表と1回のポスター発表を実施した。まずCHAGS12で主催したセッションでは、国立アイヌ民族博物館準備室や北海道大学アイヌ先住民センターなどのメンバーの報告に加え、アイヌ民族としてのアイデンティを有する研究者からのコメントも設けることができたため、本研究成果を国際発信するとともにアイヌ文化の継承・推進のあり方を問う貴重な機会になった。また日本文化人類学会第52回研究大会と生態人類学会第24回研究大会では、標津町における聞き取りに基づくアイヌ文化史跡に対する地域住民の景観認識に関する調査成果を提示することができた。なお本年度は、自然災害によって標津町における現地調査を実施することができなかったものの、これまでの進捗状況から次年度中には申請計画を完了する目途がついている。以上のように、本年度も申請時に計画した調査をほぼ予定通り実施しデータを収集することができた。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は、まず過去2年間に収集した既存のデータを踏まえ、平成30年度に自然災害のため断念した北海道標津町内の「崎無異」 と「標津」の二地域における聞き取り調査を実施する。この二地域の調査を行うことができれば、同町内に存在する9地域全ての調査が完了し、質的にも量的にも過去に実施した7地区での調査成果と対比しうるデータが得られるため、当該地域内における住民の方々のアイヌ文化の歴史遺産に対する意識を把握できる。これに加え、次年度は、同じく自然災害のため実施を断念した羅臼町の北方四島引揚者団体に聞き取り調査を実施する。申請者らは、過去に標津町在住の北方四島引揚者に対して、当該地域のアイヌ文化に関する記憶の聞き取りを行っているため、その調査成果との比較検討を試みる。 この他、次年度もポー川史跡自然公園で開催されるアイヌ系住民の方々による「イチャルパ(鎮魂祭)」に参加し、アイヌ系のエスニシティを保持する住民と日本社会におけるマジョリティ系住民がどのような交流を形成しているか継続調査を行い、その現状把握を試みる。またこれまでの成果の社会還元として、地域住民の方々を対象としたワークショップに加え、アイヌの星空に関する景観認識をプラネタリウムで投影し解説する、という地域住民を対象としたイベントを企画し開催する。このイベント企画によって、エスニシティの枠を超えアイヌ文化の歴史遺産を地域共有資源として活用するあり方を、当該地域に暮らす住民の方々と共に検討する。 以上のような調査研究や社会還元を基に、本研究では、平取町二風谷地区における「イオル(伝統的生活空間)再生構想」をはじめとするアイヌ文化の歴史遺産を活用した先駆的な取り組みと比較検討する。その最終的な成果として、ポー川自然史跡公園を中核とする考古遺跡などの史跡が、地域コミュニティにとっての共有資源として活用しうる可能性を提示する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度使用額が予定より少なかった理由は、9月に計画していた北海道標津町での聞き取り調査が、北海道胆振東部震災で発生した全道一斉停電によって実施できなくなったためである。この調査では、代表者1名分と協力者2名分の旅費が含まれていたため、予算が大幅に未消化となった。これに加え、マレーシア・ペナンのマレーシア科学大学で開催された世界狩猟採集民会議(CAHGS)12でセッションを共催し報告を行ったが、別に助成金を得ることができたため、その参加のための代表者の出張旅費を捻出する必要がなくなったことも、予算が未消化となった理由の一つである。なお未消化となった予算は、平成30年度に実施できなかった標津町での現地調査を実施することと、プラネタリウムを含む成果還元のイベントの開催費用に使用する。また余裕があれば、平取町二風谷地区における「イオル(伝統的生活空間)再生構想」を中心とする、アイヌ文化振興の取り組みなどの比較調査を実施することも計画している。
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