研究課題/領域番号 |
17K03302
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研究機関 | 龍谷大学 |
研究代表者 |
椿原 敦子 龍谷大学, 社会学部, 講師 (00726086)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 宗教儀礼 / アソシエーション / 都市 |
研究実績の概要 |
2018年度は、宗教儀礼への参与観察および関係者からの聞き取り調査を行い、儀礼を執り行う集団がどのような社会的紐帯を基盤としているかについて明らかにすることができた。昨年度に実施した別の儀礼集団からの聞き取りと合わせて比較検討を行うと、設立年代が新しい儀礼集団ほど小規模で平等性を強調する傾向、設立年代が古い集団ほどリーダーシップやその世襲を強調する傾向が見られた。 ガージャール朝期までの哀悼儀礼が富裕な商人や地主などがパトロンとなって執り行われてきたことを鑑みれば、比較的古い儀礼集団が特定の人物のリーダーシップの下に組織されていることは理解できる。新しい儀礼集団の特徴である平等性の強調に関しては、先行研究によれば1950年代ごろから組織されるようになった、学生や非伝統的な職業集団による儀礼の特徴であると見られる。 このような儀礼集団の時代的変化は、本研究が課題とする「宗教」の社会的布置の変化を考察する上で重要なものである。古い儀礼集団が特定の個人によるパトロネージュに基づき、不特定の公衆に開かれた大規模な催しを開催していたのに対し、新しい儀礼集団はメンバーの平等性を強調しながら、相対的に小規模で閉じた儀礼空間となっていることは、イランにおける宗教/世俗、公/私の切り分けが変容してきたことを示している。 儀礼集団の変化をもたらす政治的・社会的作用については今後も資料収集と分析が必要であるが、今年度の調査では十分なフィールドデータを得ることができた。 また今年度は研究成果の公開として、イスラームとムスリムに関する一般向け入門書への寄稿、および辞典項目の執筆を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度はイスラーム暦ムハッラム月に行われる宗教儀礼への参与観察を予定通り行うことができ、昨年度に収集した文献資料の解析も行った。 イラン革命前の儀礼に関する資料収集は新聞や雑誌記事の収集を念頭に置いていたが、良い結果が得られなかったため計画を変更する必要がある。この課題に関しては、これまでに聞き取りを行った調査対象者の生活史を調査する方が比較の対象として適切であると考えられるため、今年度に補足調査を行う予定である。 成果公開に関しては、本研究と関連するこれまでの調査結果を儀礼と社会変動という視点から分析し、論文・書籍として出版を行ったことで本研究課題を考察するための足掛かりを作った。また、最終年度にあたる本年はイスラームと公共圏に関するシンポジウムの開催を計画しており、現在は関係者との調整を進めている。 以上の状況から、研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は調査課題として残されている革命前の儀礼組織の活動状況についての聞き取り調査を現地にて行うと同時に、儀礼組織の社会的な扱われ方に関する文献の収集を引き続き行う。 また今年度は最終年度にあたるため、口頭発表と論文による成果公開を行う。口頭発表に関しては、本研究課題に関連する研究を行う国内外の研究者と共に国際研究集会を開催する。このことにより、これまでの調査で得られた成果をより大きな議論に位置づけ、最終的には報告書を執筆することで理論的な貢献を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
最終年度に国際研究集会を開催し、海外から研究者を招聘するため、次年度への予算繰り越しを行った。
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