研究課題/領域番号 |
17K03302
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研究機関 | 龍谷大学 |
研究代表者 |
椿原 敦子 龍谷大学, 社会学部, 准教授 (00726086)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 宗教儀礼 / アソシエーション / 都市 |
研究実績の概要 |
2019年度は、昨年度に調査を行った儀礼アソシエーションの主催する儀礼集会へ引き続き参与観察を行い、個々のメンバーにインタビューを実施した。また、これまで継続的に調査を行ってきた儀礼アソシエーションが「学校」と地域でのつながりを基盤してきたことが昨年度までの調査で明らかになったことから、言語やエスニシティ、職業を基盤に構成される儀礼アソシエーションについても調査を行い、比較考察を行った。これらの調査により、宗教実践の通時的・共時的変化を辿ることができ、過去の社会経済的な変動や政教関係の変化による影響も明らかにすることができた。 また、今年度の調査では「宗教」という概念やイスラームの実践に関する規範的な語彙の使用についてのデータをインタビューと参与観察によって収集し、儀礼アソシエーションが公と私、宗教と世俗の線引きの中でどのような位置づけにあるのかについて分析を進めた。儀礼実践に関する情報、論考が掲載されている書籍・定期刊行物の収集とリスト化も行い、現在はフィールドデータと合わせて考察を進めている段階にある。 これまでの3年にわたる調査によって、儀礼アソシエーションの空間的変遷に伴う儀礼の変容、儀礼と贈与/市場経済の関係、儀礼の公共性と実践の画一化・多様化の関係という三つの課題の解明をほぼ行うことができた。 上記のフィールド調査と並行して、昨年度より文献および映像資料にもとづく20世紀以降のイラン大衆芸能の変遷についての研究を行い、論文として成果を公開した。この研究は儀礼のパフォーマンスを「宗教」という枠組みから捉えることを一旦留保して分析するための布石となるものである。研究課題についての総合的な成果の公表については実施期間中に十分に行うことができなかったが、現在はデータを整理し、論文執筆の準備段階にある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2019年度の現地調査では宗教アソシエーションの地域的な増減や構成人口の変化について調査するため、イスラーム布教機構およびワクフ慈善庁に登録された情報の閲覧を計画していたが、儀礼の参与観察と同時並行で行うことができなかった。このため、追加調査として2020年2月から3月の間にイランへの渡航を予定していたが、2020年1月以降のイランの政情不安に加え、新型コロナ感染症の急激な拡大から実施できなかった。以上の経緯から行政文書の収集・分析については今回の研究期間には行うことができなかったため、終了後の課題としたい。 また、今年度には国内外の研究者と共に研究課題に関連する国際研究集会を開催する予定であったが、参加者間での開催時期の調整が難航した経緯から、国際研究集会については実施ができなかった。しかし、この計画に代えてマギル大学のA. サルヴァトーレ教授を招聘し、比較宗教学における「比較」をテーマに研究ワークショップを実施した。このワークショップにおける議論を通じて、調査成果を別の角度から検討する機会を得ることができたため、成果公開に活かしたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
イランにおける儀礼実践の共時的な多様性と通時的変化を辿ることで「宗教」の社会的布置を考察した本研究プロジェクトでは、公/私、宗教/世俗を切り分ける権力作用と儀礼実践の関係を明らかにすることができた。しかし、「宗教」という概念が人々の意味世界の整序とどのように関わっているのかを明らかにするには調査の手法を再検討する必要がある。今後は儀礼の実践者がどのような「比較」を行い、自らの実践を位置付けているのかに着目した研究を行うことを計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年1月初旬よりイラン情勢が急変し、1月8日より外務省によるイラン全土の危険度が3(渡航禁止)以上に引き上げられたため、3月中旬に予定していたイランでの調査を見合わせた。その後のコロナ感染症拡大で現在に至るまで日本からの渡航が制限されているため、次のような計画を立てている (1) イランへの渡航制限が解除された場合は、当初の計画にてテヘランで現地調査を行う (2) アメリカへの渡航制限が解除された場合は、カリフォルニア州及びテキサス州にて現地調査と資料収集、研究者との研究打ち合わせを行う (3) 上記のいずれも実施できない場合は、国内での研究者との研究会開催及び文献資料の購入に本助成金を充てる
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