2022年度は、前年度の計画修正にもとづいて映像資料とこれまでに収集した文献やデータに基づく分析を行った。儀礼実施のサイクルと日常生活の関係、儀礼の実践と宗教的規範の関係に関して、人類学における「比較」と「模倣」をめぐる理論から考察を行った。本研究課題の最終報告として次年度にはこの分析結果に基づき、口頭発表と論文執筆を行う予定である。 過年度の研究成果の公開として、イランにおける演劇・儀礼・宗教の関係についての事典項目を執筆した。また、「社会変容と儀礼の再構成:現代イランの追悼儀礼から」と題するパネルセッションを主催し、口頭発表と議論を行った。 セッションでは、20世紀後半以降のイランで追悼儀礼をめぐる実践と言説がどのように変化してきたのかを検討した。シーア派の歴代イマームの死を悼む儀礼は、宗教界と国家の言説により、時代ごとに<宗教>と結びついたり切り離されたりしてきた。19世紀中葉以降のイランでは国家の奨励により儀礼が盛んに行われるようになり、その流れは20世紀初頭に反近代性を理由として一旦抑制されたものの、イラン革命を経て再び隆盛を迎えた。21世紀には電子メディアを通じて儀礼はこれまでの詩の朗誦よりも視覚やリズムを重視する傾向が強まった。個人発表ではこうした文脈をふまえて革命前と後のフィクション映画における儀礼や殉教譚の描写を分析し、革命前のメディアが儀礼のパフォーマンスを「伝統文化」とみなして復興したのと異なり、現代のメディアを介した儀礼の特徴は「宗教文化」としての殉教譚を新しい形態で表現している点にあると結論付けた。
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