最終年度となる2022年度は、前年度までに収集してきた研究成果の公表に努めた。2022年5月には上智大学で開催されたシンポジウム「東ティモール民主共和国20周年特別シンポジウム:2002年の「主権回復」を問い直す」にディスカッサントとして参加した。主権回復後の文化的・社会的変化に関する各参加者の研究発表を顧みつつ、東ティモールで実施してきた自身の調査成果の一端を示して論点整理を試みた。シンポジウムでのコメントに加筆修正を加えた原稿は、上智大学アジア文化研究所のディスカッションペーパーとして2023年に刊行された。 都市集落における和解儀礼で重要な役割を果たした青年の十字架について、2020年に国際学会で発表した原稿に加筆修正を施して作成した英語論文は、2022年5月に公刊された論集に所収されている。青年の十字架は、東ティモールで独自に行われるカトリックの信心業の一つである。同論文では1993年から導入された青年の十字架の効力に関する都市集落の人びとの語りが、それぞれの出身地での記憶に基づくという事例に言及した。現在も維持される出身地との社会的紐帯が青年の十字架に関する人々の語りにおいても看取されるとともに、都市集落において異なる出身地の者同士が形成する結びつきが、青年の十字架という共通の信仰実践に拠ることが示唆された。これらの点について、これまでに収集した文献研究の成果と合わせて執筆した論文は、上智大学出版から出版される東ティモール研究の論集に所収される予定である。
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