研究課題/領域番号 |
17K03308
|
研究機関 | 国立民族学博物館 |
研究代表者 |
中村 亮 国立民族学博物館, 人類文明誌研究部, 外来研究員 (40508868)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 生態・環境 / 漁民文化 / ジュゴン / 海洋保護区 / 紅海 |
研究実績の概要 |
スーダン紅海北部のドンゴナーブ湾海洋保護区を調査地とし、漁民とジュゴンの海域利用特性を「文化人類学」と「動物生態学(バイオロギング)」より解明し、漁撈活動を極力妨げないジュゴン混獲防止策を発見する。それをもって、乾燥熱帯沿岸域における安定した生産活動(漁撈)による住民生活の改善と向上に資する、漁民と保護動物との共存型海洋保護区モデルを創出することが本研究の目的である。 研究初年度は、年次計画に従い、ドンゴナーブ湾海洋保護区にて紅海大学と共同で現地調査(文化人類学)を実施した。ジュゴン混獲の主原因が「冬場に実施される撚糸製刺し網漁」であることより、冬場に調査時期を設定し、湾内の82ヶ所の刺し網漁場の位置・水深・底質・漁獲対象魚を記録した。そのデータを、ジュゴンの摂餌場である海草藻場の分布と過去(2003~2013年)にジュゴン混獲が起こった場所と重ね合わせることで、混獲の可能性が高い刺し網漁場が地図上に可視的に明らかになった。また、刺し網漁は、冬の強風時に海が荒れて手釣り漁(ドンゴナーブ湾の主要漁法)が不可能な場合におこなわれる「代替漁業」の性格を持つことも明らかになった。これまで「仮説」段階であったジュゴン混獲メカニズムについて、漁撈活動の実態が実証的に解明されることで、より具体的に明らかになりつつある。 今後は、漁師に漁業日誌(日時、場所、風、漁獲高)を書いてもらうことで(1年間)、代替漁業としての刺し網漁の経済効果について解明する必要がある。同時に、混獲可能性の高い場所での刺し網漁について、現在ドンゴナーブ村に5人いる刺し網漁師と協議するために、次回調査では、これまでの調査結果を漁業者(利害関係者)と話し合うワークショップをドンゴナーブ村で開催する予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
年次計画に従って現地調査を実施した。冬場の強風で海が荒れる日数が多い中、ドンゴナーブ湾のほぼすべての刺し網漁場(82ヶ所)の記録を収集することができた。 海洋保護区でもありユネスコ世界遺産(自然遺産)でもあるドンゴナーブ湾での調査許可取得は困難であるが、共同研究機関の紅海大学(ポートスーダン)および諸関係機関との良好な関係により、本プロジェクト期間における調査許可を取得することができた。 同時に、ドンゴナーブ村の村長(ビシャーリーン族小族長)からも現地調査の許可を得ることができたことより、本プロジェクトはおおむね順調に進展している。
|
今後の研究の推進方策 |
ドンゴナーブ湾海洋保護区におけるジュゴン混獲の主原因である「冬場の撚糸製刺し網漁」の実態についてほぼ明らかになってきた。刺し網漁場の調査により、ジュゴン混獲の可能性が高い場所も、地図上で可視的に明らかになった。この場所における漁撈活動について、刺し網漁師と協議してゆくことが今後の課題である。 現在ドンゴナーブ村に刺し網漁師は5人しかいない。刺し網のメンテナンス費用が高額であり、漁獲高がそれほど多くないことが、刺し網漁師の減少の原因であるという。一部の漁師は「刺し網漁をやめてもよい」というが、冬場の強風時における手釣り漁の代替漁業としての性格をもつ刺し網漁をやめてしまうことは、経済的な影響が大きいものと推測される。刺し網漁の経済効果については、漁業日誌(日時、場所、風、漁獲高など)により調査継続中である。実証的なデータをもとに、刺し網漁の利害関係者とワークショップなどを通じて意見交換することが必要である。 同時に、バイオロギングを用いたジュゴンの海域利用研究班の調査結果を参照することにより、ジュゴンの生態と現地の生活文化を反映した、漁民とジュゴンの共存型海洋保護区について考察することが重要となる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
現地調査で使用する研究機材を他研究費より捻出することができたため、本年度の物品費をセーブすることができた。本年度生じた次年度使用額は、次年度に調査地で開催するワークショップ経費に充てるなどして有効活用する予定である。
|