研究課題/領域番号 |
17K03317
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研究機関 | 大阪教育大学 |
研究代表者 |
西村 貴裕 大阪教育大学, 教育学部, 准教授 (70367861)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 天然記念物制度 / 国立公園法 / 自然保護制度 / 郷土保護運動 / 生態学 / ナショナリズム / 環境史 |
研究実績の概要 |
平成30年度には二本の研究論文を公表した(「10.研究発表」欄を参照)。ともに天然記念物制度の成立と発展の経緯を扱うものであり、これが最初の構想時に何を問題とし何を目指すものであったのか、その構想がどのように実現し・あるいは実現しなかったのか、これが戦前の代表的な自然保護法であった国立公園制度の性格にどのような影響を与えたか、等を論じた。またこれらの経緯とドイツにおける自然保護法の発展経緯(郷土保護運動から帝国自然保護法にいたる経緯)との比較も試みた。従来から天然記念物制度は「点」を保護する制度として、あるいは自然の利用を考えない硬直した保護主義を採用するものとして各方面から批判されてきた。上の二本の論文は、これらの批判が史実を過度に単純化したものであることを示した。実際には、1・天然記念物制度の主唱者は自然の面的保護を最優先課題とみなしていた。2・天然記念物制度の主唱者は、厳格に保護すべき自然と観光利用に供される自然とを線引きするゾーニング制度を提唱していた。3・面的保護の主張は当時の生態学的知見に基づいており、彼らは「単木」の保護をもって満足していたわけではなかった。4・国立公園法は天然記念物制度、特に天然保護区域の制度を前提にして成立しており、これに自然の厳格な保護をゆだねる建前を採用したがゆえに、「利用」に特化することができた。5・ナショナリズム的な基礎づけは制度の成立にとって必要であったが、天然記念物制度の主唱者は自然科学的基礎づけを重要視していた、等々の諸点を論じた。 これらの経緯は、現在の自然保護法の性質をも規定している。さらにドイツにおける制度の発展との比較から多くの知見を導き出したが、字数の制限によりここで記すことは断念する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画調書において、研究計画をI~Vの五段階で示しておいたが、平成30年度までの研究でII(日本における天然記念物制度の発展経緯)とIV(国立公園制度の性質をめぐる論争について、天然記念物の主唱者を軸に分析する)を終えることができた。これらはそれぞれに一年を費やす計画であったので、採択後二年を経過した段階では順調に研究が進捗していることとなる。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画調書に記載したI~Vの五段階の研究のうち、IとIII(ドイツにおける天然記念物制度の成立・発展と、これに対する郷土保護運動からの批判)を進めなければならない。しかし特に後者のテーマを扱う際にはナチズムとの関係を深く考察せねばならず、そのために、特にナチズム期における自然保護の基礎づけについて考察する必要性を感じている。これは当初の研究計画調書には記載しなかったテーマであるが、内容的に深くかかわるため、計画を大きく逸脱することにはならないと考える。 また現段階では台南で秋に開催される東アジア環境史学会での成果の公表も課題として考えており、いずれが優先するべきかについて、本報告書執筆の段階では確信が持てていない。いずれにせよ周囲の状況等も考慮しつつ、誠実に採択課題にかかわる研究を遂行する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の初年度にドイツへの資料収集旅行を計画していたが、先に日本の天然記念物制度についての研究を進めたため、その分の費用が未使用となった。その額が次年度もそのまま未使用となっている状況である。 最終年度においてはドイツへの資料収集旅行を計画していなかったが、未使用額を使ってこれを行う予定であるので、令和元年度はこの未使用額を未使用のまま残す予定である。
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