研究課題/領域番号 |
17K03325
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
山田 八千子 中央大学, 法務研究科, 教授 (90230490)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 科学技術基本法 / 総合科学技術・イノベーション会議 / 総合知 / 人文・社会科学 / 専門家 / ELSI / 産官学連携 / 研究インテグリティ |
研究実績の概要 |
本研究「学術法制に関する立法の法哲学からの視点に基づく原理的考察」は、科学技術基本計画、科学技術基本法を中心として、自然科学および人文・社会科学双方を含む意味の学術の振興のための法的・制度的仕組みである学術法制を分析・検討し、より良き学術法制スキームを提示することを目的とする研究として、申請開始時は、人文・社会科学のみにかかるものが除かれた科学技術基本法を対象とし、人文・社会科学の果たす意義とその立法への関係についての考察を企図していた。しかし、令和2年度に科学技術基本法が改正されて科学技術・イノベーション基本法が成立し、第6期科学技術基本法が策定されたことを受け、令和2年度の当該改正法とこれに伴う基本的計画の内容と成立過程に関する基本的な分析に基づき、当該改正法や総合科学技術・イノベーション会議による議論が学術法制とりわけ人文・社会科学に与える影響についての考察を行った。具体的には、日本における学術法制の制度的変容・現状に関する文献ならびに収集すると共に、複数の外国における学術法制に関する制度に関する文献を収集し、これらについての分析をおこなうと共に、申請者の所属する法科大学院をめぐる大幅な制度変容を受け、法曹を育成する専門職大学院制度の変容が、専門家の知のあり方や総合知に対し、どのような関係にあるかも検討した。また新たに注目が集まった研究インテグリティ、経済安全保障に関わる法制度の役割についても学術法制との関係で法的論点の整理を行った。 以上により2000年頃から高まった学問研究の社会的意味を問う「社会に開かれた科学技術」の動きが2010 年頃からの産官学連携(政府・企業からの要請)の動きの高まりと共に「イノベーションのための科学」に結びつき、科学技術・イノベーション基本法の設置と運用が科学の「道具化」についての懸念があることを確認するなどの重要な知見が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究においては、科学技術基本法を基本枠組みとする従来の学術法制のあり方を立法学の視点から原理的に検証し、望ましい学術法制のあり方を提言することを目指すことを目的として開始し、令和2年の科学技術・イノベーション基本法による改正を受け、これに対応する形で展開してきている。海外出張は適わなかったが、海外雑誌の投稿でのやりとりや、国内の口頭発表を通して、国外の学術法制の現状について相当程度検証でき、令和3年度は、科学技術・イノベーション基本法、第6期科学技術基本計画の策定と共に、急速に進んでいる経済的安全保障法制が学術法制に与える役割や、人文・社会科学に関わる総合知と新規科学技術を研究開発し社会実装する際に生じうる、技術的課題以外に関わるELSI(Ethical, Legal and Social Issues))の問題、日本学術会議、文部科学省所管中期目標管理法人(独立行政法人)日本学術振興会(JSPS/Japan Society for the Promotion of Science)、そして政府の機関である総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)という各組織のあり方についての関係についても検討を加えている。経済安全保障の問題を中心に、比較法的な検討においては、日本における学術法制の普遍的な性質と法文化固有の問題との区別の分析がより明確にされつつある。したがって、学術法制をめぐる公的な制度の変容は当初の想定を超えているものの、この点をふまえて、研究課題の進捗状況はおおむね順調に進んでいると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
従来の科学技術基本法をベースにした学術法制からの転換についての考察に加え、研究インテグリティ、経済安全保障についても、法制度の内容と運用について、専門家の役割という視点から、分析検討を続ける予定である。 比較法的な見地からは、科学者が、科学的助言、政策提言、研究評価をおこなう組織の複合的なあり方を検討すると共に、日本においては、日本学術会議を頂点とする学術団体の階層的なあり方のみならず、内閣府の総合科 日本学術会議、学技術・イノベーション会議、文科省の科学技術・学術審議会、JSPSなどの独立行政法人、大学改革支援・学位授与機構などの組織との関係を分析し、これらの基盤となる法令やガイドラインのあり方も同時に検討すると共に、新たに検討課題として表れた研究インテグリティの問題についても、日本より進んでいるアメリカやヨーロッパの比較法的な視点を入れて、検討する予定である。また、人文・社会科学を除くという文言が外されたものの、科学技術・イノベーション基本法に対しては、学術コミュニティで育成された来た自律的な知の創設が、政府や産業界により、「道具化」されてしまうのではないかという懸念があることが確認されたため、人文・社会科学の総合知がこの懸念の検証、解消に対し、有益な役割を果たすのではないか、法曹を含む専門家の役割についても、併せて検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍等により出張等の制限により次年度使用額が生じた。
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