研究課題/領域番号 |
17K03330
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研究機関 | 桐蔭横浜大学 |
研究代表者 |
出口 雄一 桐蔭横浜大学, 法学部, 教授 (10387095)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 基礎法学 / 法制史 / 戦後史 / 政治史 |
研究実績の概要 |
平成30年度は、「戦後体制」の形成過程の検討についての枠組をより精緻化するために、1)平成29年度に引き続き、「戦後体制」の形成の要素となる占領終結前後の法的・政治的事象の構造的把握を行うことを試み、国立国会図書館や各大学図書館などにおいて収集した史資料、同時代の書籍・論文などを踏まえて検討を行うと共に、2)1950年代から60年代にかけての「学知」の形成とその背景となる社会状況についての調査と検討を行った。 具体的には、1)に関しては、「戦争と占領の法文化」をテーマとして実施された法文化学会第21回研究大会において報告を行い(11月17日)、戦時から戦後にかけての刑事法学のあり方を英語で発信するための準備報告を行った(3月9日)。また、9月2日から10日にかけて、アメリカ国立公文書館を訪問して資料調査を行い、占領管理体制の下での法と法学のあり方を示すものを中心とする史料をデジタルカメラを用いて撮影・収集した。 2)に関しては、山本龍彦氏・清水唯一朗氏・横大道聡氏(いずれも慶應義塾大学)と共に「憲法の規整力」研究会を立ち上げ、定期的に開催している。その報告及び座談会は『法律時報』誌に連載されており、そのうち、草創期の最高裁判所における国会との関係について報告を行い(5月20日)、後に活字化した。加えて、当該時期の最高裁判所の人的構成について「司法の戦後責任」の観点からの報告も行った(12月9日)。また、1950~60年代の沖縄の法的地位についての実証研究を行った他(2月12日)、1960年代の基礎法学に大きな影響を与えた村上淳一の「国制史」受容についても、同時代の社会状況との関わりからの検討を行い(11月29日)、後者は活字化した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の全体計画については、昨年度の成果を踏まえて、「戦後体制」の形成に関する法的観点からのアプローチとして、主として日本国憲法下における裁判所と国会の運用のあり方について実証研究を行い、併せて、本土と分離されてアメリカの施政権下にあった沖縄の法的地位について検討し、日本本土の占領管理体制下との比較を行うことで、「戦後体制」の重層的な構造についての分析枠組みを構築することが出来た。アメリカ国立公文書館において収集した史料は、特に後者の分析に際して活用することが出来た。 一方で、「戦後体制」における日本国内の法的構造を実証するための史資料については、なお収集が不足しており、最終年度において情報収集や所蔵機関の開拓などに積極的に取り組むこととしたい。
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今後の研究の推進方策 |
令和元年度においては、過去2年間の研究成果を踏まえて、多角的に発信を行い、今後の研究につなげることとしたい。具体的には、1)5月に予定されている日本法社会学会2019年度学術大会企画関連ミニシンポジウム②「学際的に見た司法制度改革」において報告を行ってこれを活字化する他、2)6月以降に数回予定されている「憲法の規整力」研究会に継続的に参加し、また、3)鈴木敦氏(山梨学院大学)と共編を務める『〈戦後憲法学〉の群像』(2020年に弘文堂から刊行予定)のとりまとめ及び論稿執筆を行うことで、「戦後体制」と憲法学の関係を検討することとしたい。更に、4)1930年代から1960年代までを視野に入れた『20世紀の例外状態と総力戦体制における日独法学』(マックスプランク・ヨーロッパ法史研究所叢書として2020年に刊行予定)に日本の刑事法についての英文論稿を寄稿することで、国際的な情報発信を行うこととしたい。 これらの共同研究と並行して、アメリカ公文書館における資料調査、及び、国内の各機関における史資料の収集についても継続して行う予定である。平成29年度・30年度の成果を踏まえて、収集した史料を整理し、共同研究等によって検討を深め、「戦後体制」の形成過程についての新たな知見について、その構造の実証分析を行いたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和元年度において寄稿予定の『20世紀の例外状態と総力戦体制における日独法学』は、英文での執筆となるため、そのネイティブチェックに費用がかかることに加え、現在調整中であるが、ドイツ側からの執筆者との打ち合わせをフランクフルトのマックスプランク・ヨーロッパ法史研究所において実施する計画であるため。
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