研究実績の概要 |
本研究は英米の法の支配の歴史、思想史を包括的に研究するとともに、わが国の法の支配の研究、立憲主義の研究に厚みを与えることを目的としている。 最終年度である令和4年度においては、イギリスの法実証主義に基づく法の支配論、特にベンサムの法の支配論についての研究を深めることができたと思われる。主な成果として、ベンサムを法の支配の理論家として捉える先駆的な研究をおこなったGerald Postema教授の、Utility, Publicity, and Law: Essays on Bentham's Moral and Legal Philosophy(2018)の翻訳を、『ベンサム「公開性」の法哲学』という邦題で慶應義塾大学出版会から公刊した。原著で主題的に論じられていたベンサムの道徳的・法的判断の「公開性」の前提とその法の支配論との関係についても、「訳者解説」で詳しく論じることができた。また、世界各国のベンサム研究者が寄稿している、P. Schofield and X. Zhai (eds.) Bentham on Democracy, Courts, and Codification (Cambridge University Press)にも、「Bentham's Constitutional Code and His Pannomion」という論稿を寄稿している。そこでは、ベンサムの法典化論における裁判官の役割に焦点を当てつつ、ベンサムがいかに裁判官に対して法の支配を及ぼそうとしたのかについても検討した。また、『法学教室』509号の「特集2:いま知っておきたい法制史」にも寄稿する機会をいただいた。「ベンサムとイギリス近代法」という論稿を執筆したが、そこでは、ダイシーに連なる、イギリスの近代以降の法の支配伝統におけるベンサムの位置づけについて、比較的詳細に論じることができた。
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