本研究は、イギリス貴族院における制定法文書の審査・承認権限を検証し、二院制下の議会の委任立法に対する統制の有効性を考察することを目的として実施された。2017年度には、二院制の比較研究と委任立法の議会統制の審査手続を検証し、2018年度には、国政調査権の比較研究や、議会における法案事前審査手続の分析を行った。これらの検討を踏まえ、2019年度は、委任立法の議会審査における英日議会の比較分析を行い、総括を行った。具体的には、政府に広範な立法権委任の慣習が存在してきたイギリスでは、委任立法に対して議会側が承認権や拒否権を有する統制権限が実効的に機能してきたのに対し、同様に、委任立法が常態化している日本においては、国会による委任立法に対する事後的な統制権限は、災害対策基本法等ごく例外的な場合に限られていることを指摘した。また、イギリスでは、議会が制定法文書に対する有効な監督権限を行使するために、専門的技術的観点から実体審査を行う二次立法審査のための審査委員会が設置され、特に、貴族院において活発な政策的審査が行われていることを量的・質的な観点から指摘した。他方で、イギリスの議会における制定法文書の承認手続には、法律案審議の際の庶民院の優位性はない。このことは、日本のねじれ国会における両院間の対立によるデッドロックと同様の混乱をイギリスの両院間において生じかねない。こうした分析に基づき、本研究では、イギリスの貴族院が拒否権を有する現行の制定法文書に対する承認型手続を見直し、授権法において、委任立法の必要性、緊急性に基づいて、否認型手続を選択することや、審議期間に一定の期限を付して庶民院の優越を規定する両院間の調整メカニズムの手続きの検討の必要性を指摘し、その在り方を示した。
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