明治期に日本からドイツに渡航し、ドイツの大学において法学博士の学位を取得した者(以下、「学位取得者」)たちの現地での学修・研究にかかわる諸活動の実態、中でも学位の取得・審査の具体的経緯を「学位審査記録(Promotionsakten)」を中心とする史料に即して実証的に明らかにすることが、本研究の目的である。2017年度から2022年度に至る研究期間においてその目的の達成に取り組み、主として以下の成果を達成した。①明治期における学位取得者の全体像(該当者全員につき、氏名、留学前・後の経歴、留学先および学位取得先となった大学等)をまず明らかにした。②ゲッティンゲン、ミュンヘン、ハレ・ヴィッテンベルク、ハイデルベルク、ライプツィヒ、エアランゲン・ニュルンベルクの各大学を調査し、これらの大学で学位を得た学位取得者に関し、学位の申請・審査の実際を未公刊の文書史料に依拠して解明した。③当時のドイツにおける法学教育(制度とその運用実態、各大学の開講科目等の授業概要、学位取得や国家試験との関係など)の実情も概括的ではあれ併せて明らかにし、学位取得者たちの現地での研究・学修の営みを、彼らを取り巻く同時代のドイツの知的環境をふまえながら実質的に理解することを可能とした。以上の成果の基本的部分については、高橋直人「『独逸法学博士』と明治期における日独間の法学交流」(石部雅亮責任編集『法の思想と歴史』創刊第1号、信山社、2020年12月)を通じて公にしている。 以上の成果のうち、最終年度の2022年度に得られたのは、主として③にかかわるものである。具体的には、法学教育、大学での法学の学び、法の専門家(法曹のみならず研究者も合わせて)の養成をテーマとして19世紀後半から20世紀初頭のドイツにて公刊された諸文献を史料とし、当時の法学教育の概略を、特に学位取得との関連を意識しつつ把握することができた。
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