研究課題/領域番号 |
17K03338
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研究機関 | 尚絅大学 |
研究代表者 |
宇野 文重 尚絅大学, 文化言語学部, 准教授 (60346749)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 民事判決原本 / 明治前期下級審判決 / 「家」制度 / 分家 / 相続 / 戸主権濫用判決 / 民法学説史 / 身分法学 |
研究実績の概要 |
裁判例分析による近代日本の家族法史の解明については、すでに離婚法や私生子法の領域において、明治前期から明治民法施行後の事例まで網羅した優れた先行業績が存在する。これに対して、「家」制度そのものに直結する戸主権や分家、相続にかかわる事例については、明治前期から明治民法施行後(19世紀後半から20世紀前半)までを見通した研究はほぼ見当たらないといえる。 本年度は、こうした現状を踏まえた上で、明治民法施行後の戸主権濫用判決の収集・整理を試みながら、その前提となる明治前期の下級裁判所における戸主権、分家、相続等に関する事例の収集・分析に取り組んだ。とくに、分家および分家相続等に関する事例として約80例(訴訟銘「分家」56例、「遺跡相続」例24例)の下級審判決を確認し、分析に取りかかっている。そのうち,分家戸主死亡後の相続(遺跡相続,死亡跡相続等)や「一家」の経営について,本家戸主(分家の亡戸主尊属親)による分家への介入、ことに分家戸主遺妻への干渉が退けられている事例が散見される。 この紛争の構図は、明治民法施行直後に確立したとされる戸主権濫用法理(戸主の居所指定権濫用判決)と酷似しており、その法的判断・法理としての思考が継承された可能性がある。今後、裁判例の詳細な分析を進めるとともに、ドイツ法理論の継受や明治30年代の裁判官淘汰という現象との関連性も視野に入れ、検討を深めたい。 なお、これに関連して、明治以降の民事法史の展開に関する業績および明治前期身分法関連判決の分析について、業績を公表した(「10 研究発表」参照)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
明治民法施行以後の判例法理の展開と身分法学説の展開について検討する前提として、明治前期下級審における膨大な判決を収集・分類・精査し、主に分家にかかわる訴訟を対象に研究を進めているが、その数が多数に登ることに加え、各事例の論点は多岐にわたり、たとえば行政訴訟(戸籍をめぐる取り扱い)、親権(自然権)にかかわる争い、親族協議の有効性など多様な論点が絡み合っていることが判明し、その検討に多くの時間を要することとなった。 また、民法学説史の整理に着手し、中川善之助と同時代人である我妻栄との比較という視点が不可欠であることを改めて確認し、民法学史上の泰斗である二人の研究に対し、実現可能な研究方法について検討する時間が必要となったことが挙げられる。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に引き続き、明治前期の分家・相続に関する下級審判決分析を遂行し、明治民法施行後の戸主権をめぐる判例法理と法理論との比較・検討を行い、2018年度~19年度にかけて成果を公表していきたい。 また、明治民法施行後の身分法学説史研究として、中川善之助と我妻栄の相続法論、とくに一子相続、生前贈与と分家などに関する議論に注目して論点を整理し、「世帯」と民法上の「家」概念が法的にどのように認識されていたのかについて検討をはじめたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
近隣の都市での研究会参加・資料収集のための交通費として使用する計画を立てていたが、日程等の調整がつかず実施できなかったため、残額が生じた。2019年度の助成金と合わせて、学会・研究会・資料収集のための費用(秋に韓国にて開催予定の国際学会参加など)として使用したい。
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