本研究は、明治前期の下級審における「家」に関する裁判例分析や、明治民法の「家」制度関係規定の分析および法学説の検証を通して、20世紀家族法史における「世帯」という単位と「家」制度との関係について探求してきた。研究期間を通じて実施した研究の概要は次の通りである。①扶養法について主に3つの論点で研究した。ⅰ)明治前期下級審における扶養をめぐる裁判例研究、ⅱ)扶養法の歴史的展開と明治民法の構造的特徴の分析、ⅲ)中川善之助の「扶養の二類型」理論と「家」制度との関係についての考察。②明治民法において幕藩期とは異なる「家」制度的要素がどのように構造化されているのかについて考察し、1930年代以降の立法(民法改正)のプロセスについても分析を行った。③中川善之助の相続法論、とくに一子相続・農地相続論ついて、1930年代のドイツの一子相続法の受容や植民地調査の影響を指摘し、戦後の「農業資産特例法案」に対する見解について分析を試みた。④日独の研究者による共同研究を遂行してきたが、新型コロナウイルスの影響のため書籍編集等に遅れが生じた。しかし研究者間で意見交換を重ね、最終年度には、各植民地法における親族・相続法の適用、1940年代の女性の権利と地位の変化、戦後改正との連続性・連続性など、多くの論点を共有し、研究に取り組むことができた。 主な成果物としては、比較家族史学会監修・小池誠・施利平編著『家族研究の最前線⑤家族のなかの世代間関係』所収の「明治民法下の世代間関係の理念と実相」(日本経済評論社、2020年)、②③④の研究成果は2023年度刊行予定の松本尚子、レナ・フォリヤンティ編著”Jurisprudence in the state of mobilization and occupation :Germany and Japan in comparison"に公表予定である。
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