研究課題/領域番号 |
17K03339
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
岸本 太樹 北海道大学, 法学研究科, 教授 (90326455)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 公私協働 / 民間レジーム / 民間規格の援用 参照指示 / 法律の留保 / 民主的正統性 / 民間規格化手続の統制 |
研究実績の概要 |
本年度は、「法律又は法規命令に於ける民間規格等の援用・参照指示」現象につき、①その具体例を確認しつつ、これを類型化すること、②当該立法技術が用いられている具体的な法領域の特性を踏まつつ、当該立法技術の存在意義と背景を解明すること、③当該立法技術に対するドイツ公法学上の学術論議の全体像を解明することに主眼を置き、論点をクリアにすべく、「民間規格の援用・参照指示」に関する国内外の先行学術文献の読み込み作業を集中的に実施した。 「立法のアウトソーシング」とも称される「民間規格等の援用・参照指示」は、a)原子力法領域など、規制にあたって極めて高度かつ日々急速に進歩・進展する科学技術的な知見が必要とされる法領域や、b)国内の証券市場にとどまらず、海外の証券市場において資本調達を行うグローバル企業の出現を踏まえ、これらグローバル企業が上場等を行う場合に遵守すべき会計原則等を国際的に平準化する動きが活発な法領域において広く用いられている。そこではいずれも、国内法的にみれば民主的正統性を持たない民間団体等の非国家的法主体が、事業又は経済活動を行う上で遵守すべき具体的な行動規範を実質的に決定し、それを国内の立法者が法律等において援用し、積極的に取り込んでいる実態が浮かび上がる。こうしたやり方に対しては、より実効的な規制基準を迅速に策定・改訂する必要性という視点から、これを「必要やむを得ないもの」と評価する動きがある反面、社会システム全般に関わる問題解決策が、民主的正統性を持たない一部の利害関係者集団によって決定されることを危惧し、仮に当該立法技術の存在自体を認めるにせよ、「非国家的法主体による基準策定プロセスを厳格に統制すべき旨」を主張する動きもまた存在する。本年度は、この点に関する学術論議の全体像を解明し、論点の洗い出しと論点の整理を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、国内外の銀行・証券市場等において資金調達を行うグローバル企業が、海外の銀行から融資を受け、又は海外の証券市場に上場する際に遵守すべき「会計原則」について、これを国際的に統一し又は国際的に平準化しようとする国際的な動向において、1)国内外の民間規格化団体が「財務諸表等の作成方法」に代表される会計原則の具体的内容を実質的に決定し、これを日々改訂していること、2)国家は、自らがこの点に関する規律を法律等において詳細に規律するのではなく、むしろ、上記民間レジームの参照を指示し、その遵守を以て適正な会計処理を推定する旨の規定を置くことによって、当該民間規格・民間レジームを広く取り込んでいることを明らかにした。 他方、上記「研究実績の概要」でも指摘した通り、こうしたやり方に対しては、投資家や債権者等に広く影響を及ぼし、ひいては社会システム全般に関わる問題解決策が、民主的正統性を持たない一部の利害関係者集団によって決定されることを危惧し、仮に当該立法技術の存在自体を認めるにせよ、「非国家的法主体による基準策定プロセスを厳格に統制すべき旨」を主張する動きもまた存在する。そこで本年度は、この点に関するドイツの立法事例として、ドイツ商法典(HGB)第292a条並びに同第342条をめぐる学術論議に焦点を当て、民間規格等の援用という立法技術を認めるにせよ、そのための前提条件として、1)規格化を行う民間団体の組織統制、並びに、2)規格化プロセスの法的統制の必要性を主張する同国の学術論議の全体像を解明した。本年度の研究によって明らかになった学術的知見については、2017年度末に学内の研究会において報告を行い、現在、論文の公表準備中である。同論文は、2018年度末までに公表する見通しであり、本研究は概ね当初の予定通り進行中である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究プロジェクトの申請書においても記載の通り、研究2年目にあたる2018年度は、前年度2017年度に解明した基礎・基盤的な学術知見を踏まえつつ、法律や法規命令等において援用され、その参照が指示・推奨される民間規格の策定プロセスについて、実態調査を行う予定である。上記「現在までの進捗状況」でも指摘した通り、ドイツでは、「援用・参照指示という立法技術」による「民間団体等の非国家的法主体が策定した民間レジームの取込み」に対しては、それが「民主的正統性のない非国家的法主体による実質的な立法活動の承認」につながる危険性を直視し、仮にかかる立法技術の存在それ自体を認めるにせよ、そこに厳格な条件設定を行おうとする動きが盛んである。実際、会計基準を策定する国内の民間団体(民間会計基準委員会、以下、DSR)に関する規定である「ドイツ商法典HGB第342条」は、DSRに対して会計基準の策定を委ねつつも、1)会計基準を策定する民間組織としてDSRが備えるべき「組織的条件」、並びに、2)DSRが規格を策定する際に遵守すべき「手続的条件」を規律するとともに、DSRによって策定された民間規格を法律上援用し、その参照を指示する際に連邦司法省内部で踏まれるべき手続条件として、3)受容適性審査手続を規律している。2018年度は、前年度に明らかになった上記DSRの規格化手続と連邦司法省における受容適性判定手続に焦点を当て、特にその実態調査を行うことにより、民間規格の援用・参照指示につき、ドイツの立法実務の実際をヨリ明確に浮き彫りにし、以て、我が国の立法実務が今後参考にすべき視点を得ることに主眼を置いた研究活動を行う予定である。
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