研究課題/領域番号 |
17K03339
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
岸本 太樹 北海道大学, 法学研究科, 教授 (90326455)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 民間規格の動態的援用 / 民間規格の静態的援用 / 民主的正統性 / 民間規格の受容適性評価 |
研究実績の概要 |
本年度は、当初の研究計画通り、立法のアウトソーシング(非国家的法主体が策定した民間規格等の立法による取込み現象)につき、この問題に関するドイツ公法学(特に行政法学)上の論議動向につき、これを総合的かつ体系的に解明し把握することに主眼を置いた。 民間規格の援用又は参照指示(Verweisung)は、動態的援用と静態的援用に分類される。ここで「動態的援用」とは、立法上参照を指示される民間規格のバージョンが固定されておらず、後に民間規格が改訂された場合、改訂後の内容が立法内容として自動的に取り込まれるやり方を意味する。これに対し「静態的援用」とは、立法上参照を指示される民間規格のバージョンが固定されており、仮に当該民間規格が改訂されたとしても、民間規格を援用する側の立法(法律又は法規命令)が改正され、それが当該改訂後の民間規格を改めて援用し直さない限り、改訂された民間規格の内容が立法に取り込まれないやり方を意味する。本年度は、ドイツ公法学上の議論を手掛かりとして、一)経済のグローバル化の急速な進展又は規制技術の専門高度化に伴って、実効的な規制基準を迅速に策定・改廃する能力に欠ける国家が、その規律能力の欠如を補うために、本来規制を受ける側の非国家的法主体が策定した基準を立法内容に取込み、以て規制の実効性を確保しようとしていること、二)しかしそこには、規制によって保護されるべき第三者(例えば消費者等の一般大衆)の利益(公共の利益)が適切に考慮されないまま、公共の利益に関する事項が、民主的正統性のない非国家的法主体によって決定される危険性が潜んでいること、したがって両者を調整するためには、民間規格の援用という法技術を認めるにせよ、動態的援用は憲法上許容されず、厳格な受容適性評価手続を条件とする静態的援用のみが許容されるべきであるとするドイツの学術論議の全体像を理論的に解明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの進捗状況は、おおむね順調に進展しており、上記「研究実績の概要」で述べた通り、「民間規格の動態的又は静態的援用に関するドイツ公法学上の学術論議の全体構造」を理論面において把握するに至っている。今年度までの研究成果は、既にその一部が論文の形式で公表されている(論文①)が、本年度(2019年度)4月には別論文②が公表される見込みである。論文①「新規制基準における原子力安全の論理(下)―継続的更新性・科学的客観性・民主的正統性・公益適合性確保の観点からの検討」法律時報90巻4号99頁以下103頁(日本評論社、2018年4月)は、原子力学会等の非国家的法主体が策定した民間規格の援用・参照指示現象に焦点を当て、それが許容されるための法的条件を検討したものである。他方、論文②「立法のアウトソーシング―規範内容形成局面における公私協働の限界」碓井光明他編『行政手続・行政救済法の展開』(信山社、2019年4月刊行予定)は、非国家的法主体が策定する国際会計基準の立法への取込み現象に関するドイツの学術論議の全体像を紹介し、これを行政法学的分析軸から理論的に分析するものである。
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今後の研究の推進方策 |
本研究プロジェクトの最終年次にあたる本年度は、前年度までの理論研究で得られた知見を踏まえつつ、当初の計画に沿って、実態調査を実施する予定である。先述の通り、少なくともドイツでは、民主的正統性のない非国家的法主体(民間団体等)が策定した規格を動態的に援用することは憲法上許容されないものとし、仮に民間規格を立法上援用し、その参照を指示する立法技術を認めるにせよ、それは厳格なる受容適性評価を経たうえでの静態的援用でなければならないとする考え方に立脚し、これを前提として、規格を策定する民間法主体の組織、民間規格の策定手続を法的に統制したうえで、策定された民間規格の受容(立法による援用・参照指示)に先立ち、厳格な受容適性評価手続を分野・領域毎に整備しつつある。本年度は、上記「現在までの進捗状況」の項目において列記した拙稿「立法のアウトソーシング」(上記論文②)で取り扱った民間会計基準の援用問題に焦点を当て、基準を策定する民間法主体の組織統制と規格策定手続の実態、並びに、その受容適性評価の実態につき調査を行い、民間規格の援用・参照指示(立法のアウトソーシング)における「民主的正統性の確保」と「公益適合性の確保」が、一体どの程度実現され又は実現できていないのかを実証的に検証する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額(B-A)12万1513円は、今年度末(2018年2月頃)に刊行予定であった外国語文献(ドイツ語文献)の購入費用として計画していたところ、刊行が遅れたため購入できず、2018年度末までの執行に至らなかった金額である。当該次年度使用額は、今年度、当該外国文献が刊行され次第執行する予定である。
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