研究課題/領域番号 |
17K03339
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
岸本 太樹 北海道大学, 法学研究科, 教授 (90326455)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 民間規格の援用 / 動態的援用 / 静態的援用 / 公私協働 / 立法のアウトソーシング |
研究実績の概要 |
2019年度は、「法律又は法規命令に於ける民間規格の参照指示・援用」という立法技術が投げかける諸々の論点につき、これまでの研究で得られた知見を整理し、これを体系化した上で研究報告を実施するとともに、論文を執筆・公表する作業に従事した。2019年9月9日には、ドイツ・キール大学において「公的部門と私的部門の関係性の変化ー協働の許容性・条件及び限界ー」(Taiki Kishimoto, Die veraenderte Verhaeltnisse von oeffentlichem und privatem Sektor ― Zulaessigkeit, Bedingungen und Grenzen der Kooperationen―)と題する研究報告を行い、①ドイツ同様、我が国に於いても、所謂「動態的援用(法律又は法規命令が、民間規格の版(バージョン)を固定せずに之を援用するやり方」が見られること、②かかる「動態的援用」は、実質的に、「民主的正統性の連鎖の中にはない民間の法主体による立法行為」として、憲法上極めて問題が大きいこと、③仮に法律や法規命令に於いて民間規格の参照を指示し、これを援用するにせよ、それは「静態的援用(民間規格のバージョンを固定し、規格が改訂された場合には、その内容を事前にチェック・評価したうえで、改訂された規格を改めて援用・参照指示するか否かを、立法府に於いてその都度判断し、決定するやり方)」をとるべき事を論じ、同大学のF・Becker教授等と活発な意見交換を行った。なお、この点に関する議論は、岸本太樹「立法のアウトソーシング ―規範内容形成局面における公私協働の限界―」碓井光明=稲葉馨=石崎誠也編『行政手続・行政救済法の展開(西埜章先生・中川義朗先生・海老澤俊郎先生喜寿記念)』(信山社、2019年)43-67頁に公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究プロジェクトは、当初、研究実施期間3年間(2017年~2019年度)を予定していたが、之を1年間延長する(補助期間延長承認済み)。2019年9月にドイツ・キール大学に於いて行った研究報告と、そこでの質疑応答の結果を踏まえながら、2020年度内に新たな論文を執筆し、公表するためである。「立法のアウトソーシング」とも呼ばれる「民間規格の援用・参照指示」という立法技術についての日本及び比較対象国としてのドイツに於ける学術論議については、個々の論点を正確に理解し、之を適宜整理しつつ全体像を把握しており、これまでの研究を通じて得られた知見については、既に国内外の研究会において研究報告を行っている。また、そこでの議論を踏まえながら、学術論文の執筆・公表に至っており、補助事業の申請段階で構想していた研究計画にも概ね沿っている。その意味で、本研究課題の進捗状況は「おおむね順調に進展している」と評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
ドイツ公法学は、「法律又は法規命令に於ける民間規格の援用・参照指示」という立法技術に対して非常に慎重な姿勢を示しており、仮にこうした立法技術を認めるにせよ、それは「動態的援用」であってはならず、「静態的援用」でなければならないとする見解が有力に主張されている。法律又は法規命令に於いて援用され、参照を指示される民間規格のバージョンが固定されていない「動態的援用」にあっては、法律又は法規命令の内容が、民間規格の改訂によって自動的に変更され、法規範の内容が実質的に民間の法主体によって決定される事態(私人による立法)を招くからである。ドイツの公法学及び立法政策は、かかる考え方に立脚したうえで、①法律又は法規命令で援用し、参照を指示する民間規格のバージョンを固定しておき、②法律や法規命令が援用してきた民間規格が後に改訂された場合、当該「改訂された民間規格を今後も援用してよいか否か」を立法府がその都度審査し、以て「民間規格の無批判盲目的な受容による民主政原理の形骸化」を防止する体制を構築している。援用・参照指示の対象となる民間規格の「受容適正評価手続」がこれである。その代表例がドイツ商法典第342条(民間会計基準委員会)に基づいて設置された「ドイツ基準設定委員会(Der Deutsche Standardisierungsrat:DRS)」が実施する「国際会計基準の受容適性評価手続」である。上記DRSについては、拙稿「立法のアウトソーシング ―規範内容形成局面における公私協働の限界―」『行政手続・行政救済法の展開』(信山社、2019年)43-67頁でも概略を一部紹介しているが、今年度は、DRSが実施してきた樹医用適性評価手続の詳細な実態を把握し、これを分析する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
「今後の研究の推進方策」の項目でも述べた通り、今年度は、既に公表した拙稿「立法のアウトソーシング ―規範内容形成局面における公私協働の限界―」碓井光明=稲葉馨=石崎誠也編『行政手続・行政救済法の展開』(信山社、2019年)43-67頁で一部紹介した「ドイツ基準設定委員会(Der Deutsche Standardisierungsrat:DRS)」に焦点を当て、DRSがこれまで実施してきた「国際会計基準の受容適性評価手続」の実態を詳細を把握するとともに、これをめぐるドイツの学術論議の動向を渉猟することを通じて、「適宜改訂される民間規格の静態的援用」に於いて鍵となる「公益適合性・受容適性評価手続」のあり方について、「組織統制及び手続統制」の両面に渡って検討を行い、最終的には、この点に関して論文を執筆公表する予定である。補助事業期間延長については、申請を行い、既に承認を得ている。繰り越される予算については、書籍購入費・コピー費用に充てる予定である。
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