本研究は、今日の国際社会の多元的法秩序と国法体系の「交叉ないし連結」を憲法秩序に位置づけ、国際規律に関する近年の最高裁判例・学説の模索を合理的に進展させるような知見を得ることを目指すものである。高度化する国際協力と増大する国家機関の対外的活動の立憲的統制を可能とする「開かれた国家」における多層的立憲主義の構想を総合的に検討することを目的として、今年度の研究を推進した。その際、これまでに検討したグローバル立憲主義と国際立憲主義に関する知見を導入しながら、近年の日本の最高裁判例にみられる国際人権条約の援用方法の揺れを憲法学の観点から解析した。 グローバル化した世界を総体として観察すると、国際協力に関与する各国の法体系も相互に影響を与え合う関係にあることが理解できる。今日の国際法秩序と国法秩序の関係は、それが一元的か二元的かという問題意識において容易に整理できるものではなく、分散して多元的に存在する国際社会の各法体系は「交叉ないし連結」する関係にあるとみるべきであることが判明する。かつての国内法の規律領域に国際法が規制を及ぼしているといっても、そこには国際法規範だけで自立・完結した制度が存在するわけではなく、国際法規範の執行のために何らかの形で国法体系を利用しているのである。 このように国際協力のための国際規律の現況を解明したことを踏まえて、関連する論点について、法科大学院において国際法担当教員と共同開講する「国際人権法」の授業において、学生に検討結果を示しつつ検討と議論を推進した。また、そうした視座から、従来の憲法判例を再検討し、その成果を判例教材の解説にも反映させた。
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