本年度は、フランス国内およびヨーロッパ人権法において、人権制約概念としての公序の抽象化現象を法的意義とフランス共和主義との関係を検討した。 初年度から検討してきたブルキニ事件においては、フランス国内法における公序の抽象化と、伝統的な公序概念を維持しようとする裁判所のせめぎあいの一端を垣間見ることができた。地方レベルではあるが、公序概念にライシテ遵守の要素を含めようとした行政命令を、コンセイユ・デタは具体的な公序概念に基づきつつ、違法と判断した。 一方、前年度から検討してきたヨーロッパ人権裁判所における新判例(2017年ダキルおよびベルカセミ他事件)においては、フランスのブルカ禁止法の条約適合性を認めた2014年の事例と同様に、ベルギーにおけるニカブ禁止法の条約適合性が認められた。ヨーロッパレベルにおいては、ブルカ禁止およびニカブ禁止の正当化根拠である抽象的公序と、その内容としての「共生」概念が二回に渡って承認されたことになる。すなわち、フランス国内法における具体的公序の再確認と、ヨーロッパ法における抽象的公序に基づくブルカ規制・ニカブ規制の承認が同時並行で進んでいることが明らかになった。 以上のような研究成果は、所属機関で実施された公開講座「多文化共生と日本」の中で、「フランスにおける共生の作法」と題して一般市民向けに解説した。また、2019年9月にフランスで開催された公法シンポジウムにおいて仏語による口頭報告を行った。
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