研究課題/領域番号 |
17K03348
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
林 知更 東京大学, 社会科学研究所, 教授 (30292816)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 憲法 / 憲法理論 / ドイツ憲法 |
研究実績の概要 |
2018年度は、ドイツとフランスの憲法学の現代的動向について従来よりもやや視野を広げて検討する作業を進める一方、日本との比較をも加味してその特徴を浮かび上がらせる試みに着手し、現時点での検討状況をいくつかの原稿や口頭報告の形で試論的に提示した。第1に、違憲審査制がそれまでの憲法学のあり方にいかなる変容を強いたか、という本研究の中心主題について、1980年代ドイツでシュリンクが提起した「連邦憲法裁判所実証主義」という古典的定式の意義と背景を再検討し、2000年代以降の理論動向との関係で彼の議論に含まれていた可能性を再評価する試みを行い、研究会で報告した。戦後ドイツでは、伝統的な法ドグマーティクの観念から判例の主導する新たな動きを批判する知的潮流が存在するが、そこに伏在するある種の実証主義的な法観念の意味とその後の行く末について、もう一段研究を深めた上で、活字として公表することを考えている。第2に、法ドグマーティクよりむしろ憲法理論の観点から連邦憲法裁判所判例に批判的に対峙したベッケンフェルデの憲法学のあり方を再検討し、これを日本の問題状況と対比する作業を進め、ドイツで行われた国際研究集会で報告した。これは草稿に加筆修正を加えた上で次年度にドイツで活字化される予定である。第3に、このようなドイツと日本との間の憲法をめぐる問題状況の違いが両国の憲法学的思考の違いにどのような影響を与えているかについて、検討を続けた。その一部は日本の戦後憲法学に関する論文として執筆し(公刊は次年度)、また別の部分は村上淳一教授の研究を回顧する学術集会での報告の一部に反映された。第4に、ドイツ憲法学現代的展開に関して、情報自己決定権や公務員の労働基本権など新たな個別テーマに着手し、その一部を判例分析や口頭報告として発表した。第5に、ドイツとフランスに出張し情報収集を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ドイツ憲法学の展開については、学説史的展開について従来よりも一段掘り下げた検討を進めることができ、また各論的領域でも視野を拡大して検討を進めることができており、全体として予定通りに順調に進展しているといえる。また、本研究では独仏の問題状況と日本の問題状況との比較という視覚が大きな役割を果たすことになるところ、日本憲法史の検討にも着手することができ、独仏憲法学の研究との間で良好なフィードバックが働き始めている。他方、本年度はドイツと日本の研究にエネルギーを傾注した反面として、フランス憲法学に対する分析は、主要な部分が次年度以降の課題として残されている。が、全体としては順調な進捗状況であると評価しうると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度以降は、ドイツと日本に関しては2018年度までに着手した研究を今後も更に進めるとともに、公表に熟したものから順次活字化して公表していくことを考えている。他方、フランス憲法学研究に関する部分は、2019年度から本格的に検討に着手することになり、以前から継続して関心を持ち続けてきた憲法概念などを切り口に学説状況の分析を進めたいと考えている。
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