研究課題/領域番号 |
17K03348
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
林 知更 東京大学, 社会科学研究所, 教授 (30292816)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 憲法 / 憲法理論 / 比較憲法 |
研究実績の概要 |
本年度は独仏憲法理論の近年の展開に関する研究を進めると同時に、いくつかの個別テーマについて論文執筆・研究発表を行い、その中に織り込む形で本研究で得られた知見を公にした。第一に、戦後ドイツ最大の憲法学者の一人ベッケンフェルデについて日本憲法学との関係から論じた論文(前年度のドイツでの学術集会での報告原稿を基礎としたもの)を執筆した(次年度に刊行予定)。第二に、憲法上の非常事態という主題に関するワイマール共和国と戦後ドイツの問題状況を考察した論文を執筆・公表した。第三に、近年ドイツでも再評価が進むケルゼンの純粋法学について、その社会学理解との関係を検討する試論的考察を阪大のStaatsrecht研究会で報告した。第四に、9月にフランスで行われた日仏公法セミナーに参加し、日本天皇制の特質を比較憲法的視座から考える上での切り口を(近年のルクセンブルクでの議論などを手がかりに)探る研究報告を行った。また併せてドイツへも立ち寄り、当地の研究者と情報交換すると共に、次年度に参加予定の学術集会について打ち合わせを行った。第五に、同月に日本で行われた日独憲法対話に参加し、現代ドイツの主導的な研究者たちと意見交換する機会を持った。第六に、本研究の中心主題である、違憲審査制の下での憲法と政治の中の憲法の関係に関して、現時点での自分の見取り図を試論的にまとめた論文を執筆し、論究ジュリスト誌上で公表した。第七に、近年の欧州諸国の憲法学では比較憲法的な視点が重要性を増していると考えられるが、こうした展開の意義と併せて日本憲法学における比較憲法的考察の意味と可能性を再検討した論文を執筆し、法律時報誌上で公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現時点まで、ほぼ予定したとおりに研究を進めることができている。文献収集も進め、その分析・検討に取り組むと同時に、様々な論文執筆・研究発表の機会を通じて、現時点までに得られた知見を織り込む形でその成果を一歩一歩公にしつつある。但し、近年以前よりも多忙になりつつある結果、様々な原稿執筆や研究発表の依頼に応じつつ、そのテーマに可能な限り有機的に関連づける形で本研究を展開していかざるをえない状況が生じている。このことは、本研究にとって良い意味での刺激が与えられるという利点もあるが、これは逆に研究が比較的良く進捗した論点とそれほど検討が進んでいない論点との濃淡差を生じさせる原因ともなっている。残りの研究期間では、この点の若干の軌道修正を行うことで、研究全体のバランスに一層配慮したいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
第一に、本研究全体の現時点での見取り図を捉え直す上で、本年度に論究ジュリスト誌上に公表した論文の執筆作業が重要な意味を持ったが、当時にこの中で現時点での課題の所在も浮き彫りになった。中でも重要なのは、違憲審査制の下での憲法と政治の中の憲法の関係を考える上での法理論的な分析視角について更に検討を進める必要性があると考えられる点であり、次年度の研究のひとつの重点はこの点に置くことになると考えている。第二に、現時点までで本研究において検討が手薄な点として、統治機構論の具体的な論点に即した比較憲法的な考察という点を挙げることができる。次年度は学会報告の機会なども利用しながら、議会や議院内閣制の現代的状況といった主題などを入り口に検討を進めたい。その他、文献収集や外国の研究者との情報交換や協力関係の維持・発展、個別の諸テーマについての研究・執筆など、これまで比較的順調に進捗している部分については、今後も従来と同様の取り組みを継続したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度は本来は最大で2回までの海外出張(秋と春)を行うことを視野に入れていたが、年度末にかけて切迫する原稿執筆に集中する必要が生じたこと、年度全体を通して予想していたよりも多忙な状態が続いたため、年度末には疲労が蓄積しており、この状態で出張しても旧知の研究者との討議・情報交換などで最大限の成果を得るのは難しいこと、などを考慮し、2020年2~3月の海外出張は実施しないこととした。このため、書籍の購入等を進めた上でもなお残額が生じた次第である。次年度に繰り越された分は、次年度の海外出張や書籍購入を更に充実させるために使用する予定である。
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