2021年度は、本研究の最終年度に当たるが、単一の論考の中に成果を集大成するというよりも、様々な機会から執筆された個別的な諸論文の中に本研究で得られた知見を反映させる、というスタイルで公表作業を進めることになった。これは内容的には、基礎理論と統治機構論の領域に分けることができる。第一に、基礎理論では、20年度末から21年度初めにかけて、日本憲法学の構造と特質に関する論文「規範・理論・理想」を執筆し(論究ジュリスト36号)、また21年度末には論究ジュリスト誌上で特集「社会の変容と憲法」を企画立案し、論文「準拠点としての「近代」」を執筆した(論究ジュリスト38号)。いずれにおいても、裁判規範に限定されない憲法規範の多様な特質を基礎に問題を組み立て直すという形で、本研究の成果が展開されている。その他、2020年度末に執筆された論文「憲法・国制・土壌」(樋口陽一他(編)『憲法の土壌を培養する』日本評論社、近刊)の公刊が大幅に滞る中、更に考察を深めて改めて修正作業を行ったが、これも上記2論文と基本的な思考が通底している。また、留学時代の受け入れ教員であるKorioth教授の60歳を記念する論集のために日本憲法学史における憲法史と歴史哲学の意義に関する論考を執筆したが、公刊は次年度になる。第二に、統治機構論では、連邦制及び地方自治と議会の両院制との関係を再考する論文「連邦・自治・両院制」を執筆した(憲法研究8号)。また、日本公法学会で報告「議院内閣制における議会の「審議」と「決定」」を行った。更に、前年度に提出された日仏公法セミナーにおける天皇制に関する仏語報告原稿が、セミナーの成果本の一部として公刊された。これらは皆、憲法規範の統治機構における多様な働きに関わるものとして、本研究と密接な関係を有している。
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